糖尿病の治療をしている方が、健康診断や検査、手術を受けることになったとき、
「朝食を食べないけれど、糖尿病の薬は飲んでいい?」
「インスリンはいつも通り打つの?」
「胃カメラの日はどうすればいい?」
「手術前は糖尿病の薬をやめると聞いたけれど、本当?」
と迷うことがあります。
結論からいうと、
検査や手術のときの糖尿病薬の扱いは、薬の種類と検査・手術の内容によって異なります。
そのため、
「絶食だから糖尿病薬を全部やめる」
「いつもの薬だから全部そのまま使う」
のどちらも自己判断では行わないようにしましょう。
- なぜ絶食すると糖尿病薬の使い方が変わるの?
- 健康診断で朝食を抜くだけなら?
- 胃カメラや大腸カメラではどうする?
- インスリンは絶食なら全部中止?
- 「いつもの半分くらい」にすればいい?
- SGLT2阻害薬を使っている場合は?
- メトホルミンを使っている場合は?
- CTやMRIの造影検査では糖尿病薬を伝えましょう
- GLP-1受容体作動薬などを使っている場合は?
- 手術前にHbA1cが高いと手術できない?
- 検査の日に低血糖になったら?
- 検査が終わったらすぐ薬を再開していい?
- 手術する病院と糖尿病を診てもらっている病院が違う場合は?
- 「糖尿病です」と伝えるだけでは不十分なことがあります
- 検査・手術が決まったら確認したい5つのこと
- 「絶食だから全部中止」と覚えないこと
- 今日覚えてほしい3つのこと
- まとめ
- 参考文献・情報源
なぜ絶食すると糖尿病薬の使い方が変わるの?
糖尿病の薬の中には、食事と深く関係して作用するものがあります。
食事をとらないのに普段と同じように使用すると、薬によっては低血糖を起こす可能性があります。
一方で、薬をすべて中止すると血糖値が高くなりすぎる場合もあります。
特にインスリンを使用している方では、
「食べない=インスリンは全部不要」
とは限りません。
だからこそ、検査や手術の前には個別の指示が必要になります。
健康診断で朝食を抜くだけなら?
採血などのために、
「朝食を食べずに来てください」
と言われることがあります。
この場合でも、糖尿病薬をどうするかは薬によって違います。
特に、
インスリン
SU薬
グリニド薬
など、低血糖を起こす可能性のある治療では注意が必要です。
「朝食を抜くから薬も全部抜く」と一律には考えないでください。
予約時や事前の診察で、
「糖尿病の薬を使っていますが、当日の朝はどうすればいいですか?」
と確認しておきましょう。
胃カメラや大腸カメラではどうする?
胃カメラでは、検査前に一定時間の絶食が必要になります。
大腸内視鏡検査では、食事制限に加えて下剤を使用するため、通常とはさらに条件が変わります。
特に大腸内視鏡では、
食事量が減る
下剤で水分を失う
長時間食事がとれない
といったことがあります。
そのため、糖尿病薬やインスリンの調整が必要になることがあります。
検査当日の朝だけではなく、前日から指示が必要になる場合があります。
インスリンは絶食なら全部中止?
ここは非常に重要です。
自己判断でインスリンをすべて中止しないでください。
インスリンには、
食事に合わせて使用するもの
食事とは別に基礎的なインスリンを補うもの
などがあります。
そのため、絶食時の対応も同じではありません。
特に1型糖尿病では、食事をしていなくても体には基礎的なインスリンが必要です。
インスリンを完全に中断すると、重い高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスにつながる危険があります。
絶食時のインスリン量については、必ず事前に具体的な指示を受けてください。
「いつもの半分くらい」にすればいい?
これも避けてください。
インスリンの種類や普段の投与量、血糖値、絶食時間によって調整方法は違います。
「食事が半分だからインスリンも半分」
という単純な計算ができるとは限りません。
主治医や検査を行う医療機関から、
「前日の夜はどうするか」
「当日の朝はどうするか」
「食事を再開したらどうするか」
まで確認しておくと安心です。
SGLT2阻害薬を使っている場合は?
SGLT2阻害薬を使用している方では、手術前後に特別な注意が必要です。
この薬では、絶食や手術などが重なると、まれですが糖尿病性ケトアシドーシスの危険が高まることがあります。
しかもSGLT2阻害薬に関連したケトアシドーシスでは、
血糖値がそれほど高くないことがあります。
そのため、予定された手術などでは事前に休薬が必要になる場合があります。
「手術当日の朝だけ飲まなければよい」と自己判断せず、何日前から休薬するのかを医療機関に確認してください。
メトホルミンを使っている場合は?
メトホルミンも、検査や手術の内容によって対応が変わることがあります。
特に、
長時間の絶食
脱水の可能性
腎機能の変化
造影剤を使用する検査
などでは注意が必要です。
ただし、
「造影剤を使う人は全員、同じ期間メトホルミンを中止する」
と単純に決められるわけではありません。
腎機能や検査内容によって判断されるため、検査を受ける医療機関の指示に従ってください。
CTやMRIの造影検査では糖尿病薬を伝えましょう
造影CTなどを受ける場合には、
糖尿病があることと、使用している薬を必ず伝えてください。
特にメトホルミンを使用している方では、腎機能や造影剤の使用方法などによって休薬について判断されます。
「以前の検査では休薬したから、今回も同じ」
とは限りません。
検査ごとに確認しましょう。
GLP-1受容体作動薬などを使っている場合は?
GLP-1受容体作動薬など、胃の内容物の排出に影響する薬については、麻酔や鎮静を伴う処置の前に確認が必要になることがあります。
ただし、対応は、
使用している薬
投与方法
消化器症状の有無
手術・検査の内容
などによって異なります。
自己判断で中止するのではなく、麻酔科医や主治医、検査担当医の指示を確認してください。
手術前にHbA1cが高いと手術できない?
HbA1cが高いと、
「手術を断られるのでは?」
と心配される方がいます。
血糖管理が非常に悪い場合には、感染症や傷の治りなどを考えて、予定手術の時期や治療方法を検討することがあります。
しかし、
「HbA1cが○%以上ならすべての手術ができない」
という単純な話ではありません。
手術の緊急性や種類、患者さんの状態などを総合して判断します。
検査の日に低血糖になったら?
絶食中でも低血糖になることがあります。
特にインスリンや低血糖を起こしやすい薬を使用している方では注意してください。
冷や汗
手のふるえ
動悸
強い空腹感
ぼんやりする
などがあれば、低血糖の可能性があります。
ただし、検査や手術前には飲食が制限されている場合があります。
そのため、
「検査前だから何も口にしてはいけない」と我慢せず、低血糖が疑われたらすぐ医療スタッフに伝えてください。
安全を優先して対応します。
検査が終わったらすぐ薬を再開していい?
これも一律ではありません。
検査後、
すぐ普通に食事ができるのか
吐き気があるのか
脱水していないか
腎機能に問題がないか
手術後でまだ絶食なのか
などによって変わります。
「検査が終わった=すべての薬をすぐ元通り」
とは限りません。
再開時期についても確認してください。
手術する病院と糖尿病を診てもらっている病院が違う場合は?
これはよくあります。
その場合には、手術を受ける病院へ、
糖尿病の薬の名前
インスリンの種類
1回の投与量
注射する時間
最近のHbA1c
低血糖の有無
などを伝えてください。
お薬手帳を持参するのが最も簡単です。
インスリンを使用している場合には、製品名が分かるようにしておくと役立ちます。
「糖尿病です」と伝えるだけでは不十分なことがあります
糖尿病の治療方法は患者さんによって大きく違います。
「糖尿病があります」
だけではなく、
「この薬を飲んでいます」
「このインスリンを使っています」
まで伝えることが重要です。
サプリメントやほかの病院の薬についても、あわせて伝えましょう。
検査・手術が決まったら確認したい5つのこと
① 前日の糖尿病薬はどうする?
当日の朝だけではなく、前日から変更が必要な薬もあります。
② 当日の朝はどうする?
内服薬だけでなく、インスリンについても確認します。
③ 何時から食事・水分をとってはいけない?
食事と水分では指示が違う場合があります。
④ 検査・手術後、薬はいつ再開する?
食事再開のタイミングも確認します。
⑤ 低血糖になったらどうする?
検査前に起きた場合の連絡方法を確認しておくと安心です。
「絶食だから全部中止」と覚えないこと
この記事で最も覚えておいてほしいのは、
絶食=糖尿病薬を全部中止
ではないということです。
一方、
絶食していても、いつも通り全部使う
とも限りません。
薬によって対応が異なります。
特に、
インスリン
SGLT2阻害薬
メトホルミン
低血糖を起こしやすい薬
などを使用している場合には、事前確認が重要です。
今日覚えてほしい3つのこと
① 検査・手術・絶食時の糖尿病薬の対応は、薬によって異なります
② 特に1型糖尿病では、絶食だからといってインスリンをすべて自己判断で中止してはいけません
③ 「前日・当日・検査後」の3つに分けて、薬をどうするか確認しておきましょう
まとめ
糖尿病の治療中に検査や手術を受けるとき、
「食べないから薬も全部やめればいい」
と考えるのは危険な場合があります。
反対に、
「いつもの薬だから全部そのまま使う」
ことも適切とは限りません。
特にインスリンを使用している方では、絶食中でも必要なインスリンがあります。
また、SGLT2阻害薬など、手術に合わせて事前の休薬が必要になることがある薬もあります。
ですから検査や手術が決まったら、
「糖尿病の薬を使っています。当日はどうすればいいですか?」
と早めに確認してください。
そして、
前日はどうするか
当日の朝はどうするか
検査・手術後はいつ再開するか
まで聞いておくと安心です。
糖尿病があるから検査や手術を必要以上に怖がる必要はありません。
事前に薬の扱いを確認しておくことが、安全に検査や手術を受けるための大切な準備です。
参考文献・情報源
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』
- 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」
- 各糖尿病治療薬の最新の電子添文(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:PMDA)
検査・手術時には、実際に受診する医療機関からの指示を優先してください。
