糖尿病性腎症とは?症状・検査・治療・進行予防を専門医が解説

糖尿病で通院していると、

「糖尿病性腎症に気をつけましょう」

と言われることがあります。

そのとき、

「糖尿病性腎症って、どんな病気?」
「腎臓が悪くなると、どんな症状が出るの?」
「糖尿病性腎症になったら、いずれ透析になるの?」

と不安に感じる方もいるかもしれません。

糖尿病性腎症は、糖尿病に関連して腎臓に障害が生じる病気です。

ただし、糖尿病性腎症になったからといって、必ず透析になるわけではありません。

また、腎臓の障害は初期には自覚症状がほとんどないことも多く、症状が出る前から検査で変化を確認することが大切です。

この記事では、糖尿病性腎症の症状や検査、病期分類、治療について、できるだけわかりやすく解説します。

糖尿病性腎症とは?

糖尿病性腎症とは、糖尿病に伴って腎臓の細い血管や糸球体などに障害が生じる病気です。

腎臓には「糸球体(しきゅうたい)」という小さなフィルターがたくさんあります。

このフィルターは、血液から老廃物や余分な水分を取り除き、尿をつくる役割を担っています。

高血糖の状態が長く続くと、さまざまな仕組みを通じて腎臓の血管や糸球体に負担がかかります。

その結果、尿にアルブミンというたんぱく質が漏れたり、腎臓が血液をろ過する力が低下したりすることがあります。

ただし、糖尿病のある方に腎機能の低下が見つかった場合、その原因がすべて糖尿病性腎症とは限りません。

高血圧や加齢に関連する腎障害、腎炎など、別の原因が関係していることもあります。

近年は、糖尿病のある方にみられる腎臓病を、より広い意味で**糖尿病関連腎臓病(DKD)**と呼ぶこともあります。

糖尿病性腎症とDKDは、関連する言葉ですが、厳密には同じ意味ではありません。

この記事では、糖尿病に関連する腎障害について、一般の方になじみのある「糖尿病性腎症」という言葉を中心に説明します。

糖尿病性腎症の初期症状は?

糖尿病性腎症で知っておきたいのは、初期には自覚症状がほとんどないことが多いという点です。

「体調はいつもと変わらない」

「尿も普通に出ている」

「むくみもない」

という状態でも、尿アルブミンなどの検査で異常が見つかることがあります。

そのため、症状が出てから腎臓の状態を調べるのではなく、糖尿病のある方は定期的に血液検査と尿検査を受けることが大切です。

腎機能が低下すると現れることがある症状

腎臓の障害が進むと、次のような症状がみられる場合があります。

  • 足や顔のむくみ
  • 疲れやすさ、だるさ
  • 食欲の低下
  • 息切れ
  • 貧血
  • 吐き気
  • 尿量の変化

ただし、これらは糖尿病性腎症に特有の症状ではありません。

また、腎機能が低下していても症状が目立たない方もいます。

症状の有無だけで腎臓の状態を判断しないことが重要です。

糖尿病性腎症はどんな検査でわかる?

糖尿病性腎症を評価するときに特に重要なのが、尿アルブミンとeGFRです。

1.尿アルブミン

アルブミンは血液中に含まれるたんぱく質の一種です。

通常、腎臓の糸球体はアルブミンが大量に尿へ漏れないように働いています。

ところが、腎臓のフィルターに障害が生じると、尿中にアルブミンが増えることがあります。

尿アルブミンは、一般的に尿中アルブミンと尿中クレアチニンの比で評価されます。

尿アルブミン/Cr比区分
30 mg/gCr未満正常アルブミン尿
30~299 mg/gCr微量アルブミン尿
300 mg/gCr以上顕性アルブミン尿

※数値の評価には、一時的な変動や繰り返しの検査結果も考慮します。

尿アルブミンは、運動、発熱、感染症などによって一時的に増える場合もあります。

そのため、1回の検査だけで判断せず、必要に応じて繰り返し確認します。

2.eGFR

eGFRは、腎臓が血液をろ過する力を推定した数値です。

血液検査のクレアチニン値などから計算されます。

一般的には、eGFRが低いほど腎臓のろ過能力が低下していることを示します。

ただし、eGFRは年齢や筋肉量などの影響も受けるため、数値だけで病気の原因や重症度をすべて判断することはできません。

関連記事:eGFRとは?正常値・年齢による変化・腎機能の見方

3.クレアチニン

クレアチニンは筋肉の代謝によって生じる老廃物で、主に腎臓から排泄されます。

腎機能が低下すると血液中のクレアチニンが上昇する傾向があります。

ただし、筋肉量などの影響も受けるため、クレアチニンだけで腎臓の状態を判断することはできません。

関連記事:クレアチニンとは?基準値・高い原因・eGFRとの違い

尿アルブミンとeGFRはセットで確認する

糖尿病性腎症では、尿アルブミンが増えてから腎機能が低下する経過が知られています。

一方、近年は尿アルブミンがあまり増えていなくても、eGFRが低下していく方がいることもわかっています。

そのため、

「尿アルブミンが正常だから腎臓は大丈夫」

「eGFRが正常だから腎臓は大丈夫」

と、一方の検査だけで判断することはできません。

糖尿病のある方では、尿アルブミンとeGFRを組み合わせて確認することが大切です。

関連記事:尿アルブミンとeGFRは何が違う

糖尿病性腎症のステージ(病期分類)とは?

糖尿病性腎症には、腎臓の状態を整理するための病期分類があります。

日本では、尿アルブミンや尿たんぱく、eGFRなどを使って病期を評価します。

大まかには、次のような考え方です。

病期腎臓の状態の目安
第1期正常アルブミン尿期
第2期微量アルブミン尿期
第3期顕性アルブミン尿期
第4期腎不全期
第5期透析療法期

※これは病期の概要です。実際の病期判定では、糖尿病性腎症病期分類2023に基づき、尿アルブミン・尿たんぱくとeGFRなどを確認します。第4期はeGFR 30 mL/分/1.73m²未満が目安となります。

ここで注意したいことがあります。

この分類は、すべての患者さんが第1期から第5期へ順番に進むという意味ではありません。

尿アルブミンが減少する方もいれば、尿アルブミンがあまり増えないままeGFRが低下する方もいます。

また、腎機能低下の原因が糖尿病性腎症以外にある場合には、別の評価が必要です。

病期分類は将来を決めつけるためのものではなく、現在の状態を把握し、治療方針を考えるために使います。

糖尿病性腎症は治る?

「糖尿病性腎症と言われたら、もう元には戻らないのでしょうか?」

と心配される方もいます。

糖尿病性腎症の経過は、病期や原因、治療への反応などによって異なります。

例えば、尿アルブミンが増えている段階で血糖や血圧などを適切に管理することで、尿アルブミンが減少する場合があります。

一方、長期間にわたって腎臓の組織に障害が生じている場合には、腎機能を完全に元に戻すことが難しいこともあります。

そのため、治療では単に検査値を正常にすることだけでなく、

これから先の腎機能低下をできるだけ遅らせること

が重要になります。

早い段階から状態を把握し、必要な治療を続けていくことには意味があります。

糖尿病性腎症の治療は?

糖尿病性腎症の治療では、血糖だけでなく、血圧、腎機能、尿アルブミン、心血管疾患のリスクなどを総合的に考えます。

血糖を適切に管理する

高血糖は腎臓に負担をかける要因のひとつです。

そのため、血糖を適切に管理することは腎臓を守るために重要です。

ただし、腎機能が低下している方や高齢の方では、低血糖にも注意が必要です。

HbA1cの目標は、年齢、合併症、使用している薬などによって個別に設定します。

血糖値を低くすることだけを目指すのではなく、安全に続けられる治療を考えることが大切です。

血圧を適切に管理する

高血圧も腎機能の低下に関係する重要な要因です。

血圧を適切に管理することで、腎臓への負担を減らすことが期待できます。

尿アルブミンが増えている方では、ACE阻害薬やARBといった薬が検討されることがあります。

ただし、これらの薬はすべての方に同じように使用するものではありません。

血圧、腎機能、血清カリウム値などを確認しながら、適切な治療を選択します。

腎臓を守る薬を検討する

近年は、糖尿病や慢性腎臓病の治療で、腎臓を守る効果が期待できる薬が使用されています。

その代表的なものがSGLT2阻害薬です。

SGLT2阻害薬は血糖を下げる作用に加え、適切な患者さんでは腎機能低下の進行や心不全などのリスクを減らす効果が示されています。

また、患者さんの状態に応じて、ほかの薬剤が検討されることもあります。

ただし、薬には適応や注意点があります。

「腎臓に良い薬だから誰でも使う」というわけではありません。

治療の必要性や薬の選択は、主治医と相談しながら決めていきます。

関連記事:SGLT2阻害薬はなぜ腎臓を守る

食事や生活習慣を見直す

食事や生活習慣も、腎臓を守るうえで大切です。

例えば、

  • 塩分のとりすぎを避ける
  • 禁煙する
  • 適切な体重を維持する
  • 無理のない範囲で体を動かす
  • 必要に応じて食事内容を調整する

などです。

ただし、腎機能が低下しているからといって、すべての方が同じ食事制限をするわけではありません。

特にたんぱく質の制限は、腎機能や栄養状態によって必要性が異なります。

自己判断で食事を極端に減らすのではなく、医師や管理栄養士と相談しながら考えましょう。

糖尿病性腎症になると必ず透析が必要?

糖尿病性腎症と診断されても、必ず透析が必要になるわけではありません。

腎臓の状態や進行の速さには個人差があります。

適切な治療によって、腎機能の低下を遅らせられる場合があります。

また、透析を開始するかどうかは、クレアチニンやeGFRの数値だけで決まるものではありません。

腎機能の低下に伴う症状、体内の水分や電解質の状態、栄養状態などを総合的に判断します。

「糖尿病性腎症になったら透析になる」と考えるのではなく、今の腎臓の状態を把握して、できることを続けていくことが大切です。

糖尿病性腎症を予防するために大切なこと

糖尿病性腎症の予防や進行を遅らせるためには、日頃から腎臓の状態を確認しておくことが重要です。

特に意識したいのは、次の3つです。

1.定期的に血液検査と尿検査を受ける

腎臓の障害は、自覚症状がないうちに進むことがあります。

糖尿病のある方は、eGFRと尿アルブミンなどを定期的に確認しましょう。

検査の頻度は、現在の腎機能や尿アルブミン、治療内容などによって異なります。

2.検査値の変化を見る

検査では、1回の結果だけでなく、以前と比べてどう変化しているかも重要です。

例えば、eGFRが徐々に低下している場合や、尿アルブミンが増えている場合には、治療や検査の見直しが必要になることがあります。

関連記事:eGFRが急に下がったら

3.無理なく続けられる治療を考える

糖尿病の治療は、長く続けていくことが大切です。

食事も運動も、最初から完璧を目指す必要はありません。

腎臓を守るために必要なことを知り、できるところから少しずつ取り組んでいきましょう。

「頑張りすぎる治療」よりも、「続けられる治療」を一緒に考えることが大切だと思います。

まとめ|糖尿病性腎症は早めに気づくことが大切

糖尿病性腎症は、糖尿病に関連して腎臓に障害が生じる病気です。

初期には自覚症状がほとんどないことも多く、定期的な検査が重要です。

特に確認したいのは、

尿アルブミンとeGFR

の2つです。

また、糖尿病性腎症と診断されたからといって、必ず透析になるわけではありません。

血糖や血圧の管理、適切な薬の使用、生活習慣の見直しなどによって、腎機能低下の進行を遅らせることが期待できます。

検査結果を見て不安になったときも、ひとつの数字だけで将来を決めつける必要はありません。

現在の腎臓の状態を主治医と確認しながら、これからできることを一緒に考えていきましょう。


よくある質問(FAQ)

糖尿病性腎症の初期症状は何ですか?

初期には自覚症状がほとんどないことが多いです。そのため、むくみや尿量の変化がなくても、定期的に尿アルブミンやeGFRを確認することが大切です。

糖尿病性腎症は治りますか?

尿アルブミンが減少するなど、検査結果が改善する場合があります。一方、長期間にわたる腎障害では、腎機能を完全に元に戻すことが難しい場合もあります。大切なのは、早い段階から適切な治療を行い、腎機能低下の進行を遅らせることです。

糖尿病性腎症になったら透析になりますか?

必ず透析になるわけではありません。腎機能の経過には個人差があり、適切な治療によって進行を遅らせられる場合があります。

尿アルブミンが正常なら糖尿病性腎症ではありませんか?

尿アルブミンが正常でも、eGFRが低下している糖尿病の方がいます。糖尿病による腎障害か、別の腎臓病が関係しているかも含めて評価する必要があります。

糖尿病性腎症は何科で診てもらえますか?

糖尿病内科や内科で評価・治療が行われます。腎機能低下が進んでいる場合や、尿異常が強い場合、原因がはっきりしない場合などには、腎臓内科への相談が必要になることがあります。


参考文献・参考資料

  1. 日本糖尿病学会 編・著.糖尿病診療ガイドライン2024.南江堂,2024.
  2. 日本腎臓学会 編.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,2023.
  3. 日本腎臓学会 編.CKD診療ガイド2024.東京医学社,2024.
  4. 日本糖尿病学会・日本腎臓学会関連委員会.糖尿病性腎症病期分類2023.
  5. KDIGO. Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. 2024.
  6. 糖尿病情報センター.糖尿病の慢性合併症「腎症」.

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を行うものではありません。検査結果や治療については主治医にご相談ください。