食事と運動をもう一歩深く 第12回
「毎日歩いているのに、全然やせません」
「運動を始めて1か月たったのに、体重がほとんど変わりません」
糖尿病の診療をしていると、こうした話を聞くことがあります。
せっかく頑張って運動しているのに、体重計の数字が変わらない。
すると、
「こんなに歩いているのに意味がないのでは?」
と思ってしまいますよね。
でも、ここで運動をやめてしまうのはもったいないことです。
なぜなら、
運動の効果は、すべて体重計に表示されるわけではない
からです。
運動しても、思ったほど体重が減らないことはあります
「運動すればやせる」
というイメージがあります。
もちろん、運動するとエネルギーを消費します。
そのため、体重管理にも役立ちます。
しかし、ウォーキングを始めたからといって、体重が毎週どんどん減っていくとは限りません。
第3回、第4回で説明したように、体脂肪の増減には、
食事から入ってくるエネルギーと、体が使うエネルギーのバランス
が関係しています。
運動で消費するエネルギーが増えても、食事やその他の活動を含めた全体のバランスによっては、体重が大きく変わらないこともあります。
では、運動は無駄だったのでしょうか?
いいえ。
ここで、
「運動の効果=何kgやせたか」
という考え方から少し離れてみましょう。
運動には、体重の変化とは別にさまざまな効果があります。
その一つが血糖です。
筋肉がブドウ糖を使いやすくなる
第9回、第11回でもお話ししました。
筋肉は血液中のブドウ糖を取り込み、エネルギーとして利用する大切な場所です。
筋肉を動かせば、ブドウ糖がエネルギーとして利用されます。
また、運動を続けることによってインスリンの働きが改善することも期待できます。
つまり、
体重が1kgも減っていなくても、体の中では糖を利用しやすい方向へ変化している可能性がある
ということです。
これは体重計に乗っただけでは分かりません。
HbA1cや血糖が変わることもあります
運動を続けることで、食後血糖や血糖管理が改善することがあります。
その結果としてHbA1cの改善につながる場合もあります。
ですから、
「体重は変わらなかった」
という一つの数字だけで、
「運動は効かなかった」
と判断する必要はありません。
体重と一緒に、血糖値やHbA1cの変化も見ていきます。
ただし、HbA1cもそれだけですべてを評価できる指標ではありません。
血糖値との間に大きなずれがある場合には、その理由を考える必要があります。
体力がつくことも大切な効果です
運動を始める前は、
「10分歩くだけで疲れていた」
という方が、
数か月後には、
「20分歩いてもそれほど疲れなくなった」
としたらどうでしょう。
体重が同じだったとしても、これは大きな変化です。
買い物へ行く。
旅行へ行く。
家事をする。
階段を上る。
こうした日常生活には体力が必要です。
糖尿病治療の目的は、単に検査値をよくすることだけではありません。
これからも自分らしい生活を続けること
も大切な目標です。
筋力が保たれることにも意味があります
年齢を重ねると、筋肉量や筋力は低下しやすくなります。
特に減量中には、脂肪だけでなく筋肉まで減ってしまうことがあります。
そこで筋力トレーニングなどを組み合わせることには、
筋肉や筋力をできるだけ維持する
という意味があります。
立ち上がりが楽になった。
階段が上りやすくなった。
重い荷物を持ちやすくなった。
こうした変化は体重計には表示されません。
でも、生活にとってはとても重要な改善です。
「体重は同じ」でも体の中身は同じとは限らない
第2回を思い出してください。
体重は、
脂肪、筋肉、水分などをすべて合わせた数字です。
ですから、
70kg → 70kg
だったとしても、
「何も変わっていない」
とは限りません。
運動や食事の変化によって、体脂肪や筋肉などの状態が変化している可能性があります。
もちろん家庭用体組成計の数値にも誤差や日々の変動がありますから、一回の体脂肪率に一喜一憂する必要はありません。
ここでも長い期間で見ることが大切です。
ウエストが変わっていないか見てみる
体重以外の分かりやすい指標として、腹囲があります。
体重がそれほど変わっていなくても、
「ベルトの穴が一つ変わった」
「以前のズボンが少しゆるくなった」
ということがあります。
これも体の変化を知る手がかりになります。
体重だけでなく、
体型の変化
にも目を向けてみましょう。
血圧や脂質などにも目を向ける
運動習慣は、糖尿病だけのために行うものではありません。
血圧、脂質、心肺機能など、健康のさまざまな面と関係しています。
糖尿病では、血糖値だけでなく心臓や血管の病気を予防することも重要です。
ですから、
「何kg減ったか」だけで運動の価値を決めない
という視点が必要です。
「体重が減らないからもっと運動」は注意
体重が思うように減らないと、
「まだ運動が足りない」
と思って、急に運動量を増やすことがあります。
しかし、運動は多ければ多いほどよいわけではありません。
疲労がたまる。
膝や腰を痛める。
低血糖を起こす。
そして、運動そのものが嫌になってしまう。
これでは長く続きません。
体重が減らないときには、
運動だけを増やすのではなく、食事・日常活動・睡眠・薬などを含めて全体を見直す
ことが大切です。
ヒルクライムでも体重だけを見ていたわけではありません
ヒルクライムでは体重が軽いことは有利です。
しかし、レースで本当に必要なのは、
その体重で、どれだけ力を出し続けられるか
です。
仮に2kg軽くなっても、力が大きく落ちれば速く走れるとは限りません。
反対に体重がほとんど変わらなくても、以前より大きな力を長く出せるようになれば、坂を速く登れることがあります。
だから、
体重は大切な数字の一つ。でも、それだけではない。
これは糖尿病の運動療法にも通じる考え方だと思います。
「成果」を一つではなく、いくつか持っておく
運動を始めたら、体重だけを目標にするのではなく、いくつかの変化を見てみましょう。
たとえば、
- 体重や腹囲
- 血糖値やHbA1c
- 歩ける時間や距離
- 階段や立ち上がりが楽になったか
- 運動できた日数
- 疲れにくくなったか
などです。
全部記録する必要はありません。
自分にとって分かりやすいものを一つか二つ選べば十分です。
すると、
「体重は変わらなかったけれど、以前より20分長く歩けるようになった」
という成果にも気づけます。
「運動を続けられた」こと自体も成果です
私は、ここも大切だと思っています。
これまでほとんど運動していなかった方が、
週に何日か歩くようになった。
食後に少し動くようになった。
椅子からの立ち座りを続けるようになった。
これはすでに大きな生活の変化です。
体重計の数字だけを見て、
「何も変わらなかった」
と考える必要はありません。
昨日までなかった習慣ができた。
それも立派な成果です。
今回のポイント
運動しても、体重が思ったように減らないことはあります。
でも、
体重が減らない=運動に意味がない
ではありません。
運動には、
血糖を利用しやすくする。
インスリンの働きを改善する。
筋肉や筋力を保つ。
体力を高める。
心臓や血管の健康につながる。
など、体重計だけでは見えないさまざまな効果があります。
だから、
体重は「成果の一つ」であって、「成果のすべて」ではありません。
運動を始めたら、
「何kgやせた?」
だけでなく、
「前より何ができるようになった?」
も、ときどき振り返ってみてください。
次回
リバウンドしないためには?―「頑張る減量」から「続けられる習慣」へ
体重を落とすことには成功した。
でも、半年後には元に戻ってしまった。
これは珍しいことではありません。
なぜ、短期間ならできるのに長く続けるのは難しいのでしょうか。
第13回では、意志の強さではなく「続けられる仕組み」を作るという視点から、リバウンドと習慣化を考えます。
医療情報について
この記事は糖尿病の運動療法について一般的な医学情報を提供するものです。運動の効果や適切な運動量には個人差があります。
糖尿病治療薬、心血管疾患、眼合併症、神経障害、足病変、腎臓病などによって運動内容の調整が必要な場合があります。運動中の胸痛、強い息切れ、めまいなどの症状がある場合には運動を中止し、医療機関へご相談ください。

