食事と運動をもう一歩深く 第13回
「3か月で5kgやせました。でも半年後には元に戻ってしまいました」
こうした経験がある方は少なくありません。
体重を減らすことには成功したのに、その体重を維持するのが難しい。
すると、
「自分は意志が弱いから続かなかった」
と考えてしまうことがあります。
でも、本当にそうでしょうか。
短期間なら続けられる方法でも、何年も続けるには無理があることがあります。
糖尿病の食事療法や運動療法で大切なのは、
「一番体重が減る方法」より「自分が続けられる方法」を見つけること
だと私は考えています。
体重を「減らすこと」と「維持すること」は少し違う
減量を始めた直後は、やる気があります。
「今度こそやせよう」
と思って、
ご飯を大きく減らす。
間食を全部やめる。
毎日1時間歩く。
こうした方法でも、短期間ならできるかもしれません。
そして体重が減れば、さらに頑張れます。
問題は、その生活を半年、1年、その先も続けられるかです。
目標体重に到達したところで以前の生活に完全に戻れば、体重も戻りやすくなります。
つまり、
減量は「ゴールまでの短期イベント」ではなく、その後の生活まで含めて考える必要があります。
「頑張ればできる」は、ときに落とし穴になる
「頑張る」という言葉そのものが悪いわけではありません。
何かを始めるときには、少し頑張ることも必要でしょう。
ただ、
頑張り続けなければ維持できない方法
には注意が必要です。
仕事が忙しくなった。
旅行に行った。
雨が続いた。
体調を崩した。
年末年始になった。
私たちの生活には、いろいろなことが起こります。
そのたびに崩れてしまう方法では、長く続けるのが難しくなります。
だから最初から、
「忙しい日でもできるだろうか?」
と考えておくことが大切です。
100点を3週間より、80点を長く続ける
食事療法を始めると、
「甘いものは絶対に食べない」
「外食はしない」
「毎日必ず運動する」
といった目標を立てることがあります。
できれば素晴らしいのですが、一度できなかっただけで、
「もう失敗した」
と思いやすくなります。
そこで発想を変えます。
100点を短期間続けることより、70~80点くらいを長く続ける。
糖尿病は長く付き合っていく病気です。
生活習慣も、長い時間軸で考えてみましょう。
「何をやめるか」だけでなく「何なら続けられるか」
減量では、
「お菓子をやめる」
「ご飯を減らす」
「お酒をやめる」
など、何かを禁止する方向へ考えがちです。
しかし、禁止だけでは生活が苦しくなることがあります。
たとえば毎日のお菓子が楽しみなら、
「一生食べない」
ではなく、
量を少し小さくする。
毎日から回数を減らしてみる。
食べる時間を決める。
という方法もあります。
食事療法は、
好きなものをすべて生活から追い出すことではありません。
「これなら続けられそう」という調整点を探していきます。
運動も「最低ライン」を作っておく
運動も同じです。
「毎日30分歩く」
と決めても、忙しくてできない日があります。
そんな日に、
「30分できないから今日はゼロ」
と考える必要はありません。
たとえば、
時間がある日 → 30分歩く
忙しい日 → 10分だけ歩く
もっと忙しい日 → 食後に少し動く
でも構いません。
大切なのは、
完璧にできなかった日に、完全にやめない仕組み
を持っておくことです。
第11回で紹介した食後の短い活動も、こうした「最低ライン」として使いやすい方法です。
体重は一直線には減りません
ここも知っておくと、気持ちが楽になります。
減量を始めても、
毎週500gずつきれいに減る。
というようには進まないことがあります。
水分量、塩分摂取、便通、食事内容などでも体重は変わります。
昨日より1kg増えたからといって、昨日一日で体脂肪が1kg増えたとは限りません。
第2回でお話ししたように、体重と体脂肪は同じものではないからです。
ですから、一日の数字だけで判断するのではなく、
少し長い期間で体重の流れを見る
ことが大切です。
増えてしまったときに「戻れる」ことが大切
私はここがリバウンドを考えるうえで、とても重要だと思います。
旅行で食べすぎた。
お正月に体重が増えた。
仕事が忙しくて1か月運動できなかった。
こういうことはあります。
問題は、一度崩れたことではありません。
その後、
「また少し戻してみよう」
と思えるかどうかです。
減量を、
成功か失敗か
の二択にしないことです。
少し増えたら、また生活を見直す。
運動を休んだら、また10分から始める。
この**「戻れる力」**が、長期的にはとても大切です。
毎日の体重に一喜一憂しすぎない
体重測定は、自分の変化を知るために役立ちます。
ただし、
朝、300g増えた。
翌日は500g減った。
その次は200g増えた。
という数字を毎日「成功」「失敗」と評価すると疲れてしまいます。
体重は成績表ではありません。
自分の状態を知るための情報です。
「最近少し上がる傾向かな」
と気づいたら、
「間食が増えていなかったかな」
「最近歩かなくなっていなかったかな」
と生活を振り返るきっかけにします。
数字に叱られるのではなく、数字を利用するのです。
「体重が戻った=すべて無駄」ではありません
一度減った体重が戻ると、
「今までやったことは全部無駄だった」
と思うかもしれません。
しかし、第12回でお話ししたように、運動の成果は体重だけではありません。
歩く習慣ができた。
食事の内容を考えるようになった。
自分がどんなときに食べすぎるのか分かった。
以前より体を動かせるようになった。
これらは残っています。
一度身につけた経験は、次に戻るための材料になります。
ヒルクライムでも一年中「レース前」ではありません
ヒルクライムレースに出ていた頃も、一年中レース直前と同じ生活をしていたわけではありません。
目標となるレースに向けて体重やトレーニングを調整する時期もあれば、そうでない時期もあります。
大切なのは、
一時的に一番軽い体重になることではなく、走り続けられる体を作ること
でした。
糖尿病では、さらに長い時間軸で考える必要があります。
3か月後だけではありません。
1年後。
5年後。
10年後。
そのときにも続けられている方法のほうが価値があります。
「意志」より「仕組み」を作る
続けるためには、毎日やる気を出す必要はありません。
むしろ、考えなくても自然にできる仕組みを作るほうが楽です。
たとえば、
朝食後に体重計に乗る。
夕食後に少し歩く。
買い物では少し遠い場所に車を停める。
お菓子を大袋のまま食べず、小皿に出す。
こうした小さな工夫を生活の中に組み込んでいきます。
「今日は頑張ろう」と毎回決意しなくてもできる状態
が作れれば、続けやすくなります。
最初から「一生続けられるか?」と考えなくてもいい
とはいえ、
「これを一生続けなければ」
と考えると、それも重荷になります。
まずは、
今の生活に一つだけ入れてみる。
そして、
「これは続けられそう」
と思ったら残す。
合わなければ別の方法を試す。
糖尿病の生活療法には、一つの正解しかないわけではありません。
自分に合った方法を探していくこと自体が治療の一部なのです。
今回のポイント
リバウンドを防ぐために必要なのは、
もっと強い意志
とは限りません。
むしろ大切なのは、
無理なく続けられる仕組みを作ることです。
完璧にできない日があっていい。
食べすぎる日があっていい。
運動できない週があってもいい。
そこで終わりにせず、
また戻ればいい。
「頑張る治療」から、
「続けられる治療」へ。
この考え方は、減量だけでなく糖尿病との長い付き合いにも通じています。
次回・最終回
食事と運動、結局どう組み合わせる?―「続けられる糖尿病治療」の作り方
ここまで、
体脂肪、筋肉、エネルギー、糖質、たんぱく質、食事量、有酸素運動、筋トレ、食後運動、体重に表れない効果、そして習慣化について考えてきました。
最終回では、これらを一つにつなげます。
「では、明日から実際に何をすればいいのか?」
食事と運動を別々に考えるのではなく、一日の生活として組み合わせる方法を整理します。
医療情報について
この記事は糖尿病の食事療法、運動療法および体重管理について一般的な医学情報を提供するものです。適切な体重や減量目標は、年齢、体格、治療内容、合併症などによって異なります。
特に高齢の方、やせている方、低栄養の可能性がある方、腎臓病などの合併症がある方では、減量が適切とは限りません。具体的な食事・運動・体重目標については主治医や医療スタッフにご相談ください。

