食事と運動をもう一歩深く 第9回
「糖尿病の運動といえば、ウォーキングではないですか?」
そう思っている方は多いかもしれません。
確かに、ウォーキングや自転車などの有酸素運動は、糖尿病の運動療法として大切です。
でも、もう一つ忘れてほしくない運動があります。
それが筋力トレーニング、いわゆる筋トレです。
「筋トレというと、若い人が筋肉を大きくするためにやるものでは?」
と思うかもしれません。
実は、糖尿病の患者さんにとっても筋肉はとても重要です。
今回は、
なぜ筋肉を使うことが血糖に関係するのか
を考えてみましょう。
筋肉は「体を動かす」だけではありません
筋肉というと、
歩く。
立ち上がる。
階段を上る。
重いものを持つ。
といった、体を動かす役割を思い浮かべると思います。
もちろん、それは大切な働きです。
しかし糖尿病を考えると、もう一つ重要な役割があります。
筋肉は、
血液中のブドウ糖を取り込んで、エネルギーとして利用する大切な場所
なのです。
食べた糖はどこへ行く?
食事をすると、糖質が消化・吸収され、ブドウ糖として血液中に入ります。
その結果、血糖値が上がります。
するとインスリンが働き、ブドウ糖を体のさまざまな組織へ取り込むのを助けます。
その大きな受け皿の一つが骨格筋です。
ですから筋肉は、
血糖を利用する大きな「消費場所」
と考えると分かりやすいでしょう。
運動すると筋肉は糖を使います
筋肉を動かすにはエネルギーが必要です。
そのため、運動している筋肉ではブドウ糖が利用されます。
さらに、運動にはインスリンの働きを改善する効果も期待できます。
つまり運動は、
単にカロリーを消費するだけではない
のです。
ここが、糖尿病の運動療法を理解するうえで非常に重要なところです。
「体重が減らなかったから意味がない」は違います
筋トレを始めても、すぐに体重が減るとは限りません。
すると、
「1か月運動したのに、体重がほとんど変わらない。意味がなかった」
と思ってしまうことがあります。
でも、それだけで運動の効果を判断するのはもったいないことです。
運動によって、
筋肉を使う機会が増えた。
以前より立ち上がりが楽になった。
階段を上りやすくなった。
血糖値が改善した。
体力がついた。
こうした変化が起こっているかもしれません。
体重計には表示されない効果もある
ということです。
減量中だからこそ筋肉を意識する
第2回、第6回で、
体重を減らすときには、脂肪だけでなく筋肉も減ることがある
とお話ししました。
そこで、
食事を適切に調整する。
必要な栄養をとる。
そして、
筋肉を実際に使う。
この組み合わせを考えます。
減量の目標は、
「できるだけ軽い体」ではなく、「余分な脂肪を減らしながら健康に動ける体」
です。
そのためにも筋力トレーニングには意味があります。
筋トレ=重いバーベルではありません
「でも、筋トレはちょっと……」
という方もいるでしょう。
ジムで重いバーベルを持ち上げる姿を想像しているかもしれません。
しかし、筋力トレーニングはそれだけではありません。
たとえば、
椅子から立って、また座る。
これも脚の筋肉を使います。
壁に手をついて腕立て伏せのような動きをする方法もあります。
自分の体重を利用した運動も立派な筋力トレーニングです。
特別な器具がなくても始められます。
スクワットを100回する必要もありません
ここでも、
多ければ多いほどよい
という考え方はしません。
運動習慣がなかった人が突然、
「今日からスクワット100回!」
と始めたらどうでしょう。
翌日、筋肉痛で嫌になってしまうかもしれません。
それでは続きません。
まずは、
無理なくできる回数から。
慣れてきたら少しずつ増やします。
食事と同じように、運動も「続けられる量」を探すことが大切です。
有酸素運動と筋トレは役割が少し違う
第8回では、ウォーキングや自転車などの有酸素運動について説明しました。
では、
有酸素運動と筋トレのどちらをすればよいのでしょう?
実は、どちらか一方を選ばなければならないわけではありません。
ウォーキングや自転車には、それぞれのよさがあります。
筋力トレーニングにも別のよさがあります。
そのため、
有酸素運動+筋力トレーニング
という組み合わせを考えることができます。
詳しくは次回取り上げます。
私も自転車だけではありませんでした
ヒルクライムでは、長い坂を自転車で登り続けるための持久力が必要です。
そのため、自転車に乗る練習はもちろん重要でした。
しかし、体を支え、力をペダルへ伝えるためには筋肉も必要です。
体重を軽くすることだけを考えて筋肉まで減らしてしまえば、
軽くなったけれど力が出ない
ということになりかねません。
ここでも、
体重だけを見るのではなく、「動ける体」を考える
ことが大切になります。
糖尿病の運動療法でも同じです。
高齢の方では、筋肉を保つ意味がさらに大きくなります
年齢を重ねると、筋肉量や筋力は低下しやすくなります。
糖尿病がある高齢者では、
血糖値だけでなく、これからも自分の足で歩き、生活を続けられるか
という視点も重要です。
「HbA1cはよくなったけれど、筋肉が落ちて歩けなくなった」
では困ります。
その意味でも、
筋肉を保つことは糖尿病治療の一部
と考えてよいでしょう。
低血糖には注意しましょう
運動によって血糖値が下がることがあります。
特にインスリンや一部の糖尿病薬を使用している方では、運動による低血糖に注意が必要です。
運動の種類や時間、食事との関係、薬の内容によっても違います。
低血糖を起こしたことがある方は、運動を始める前に主治医と相談してください。
合併症がある場合は運動方法を調整します
糖尿病では、誰でも同じ筋トレをすればよいわけではありません。
たとえば、網膜症、心血管疾患、神経障害、足の病変などがある場合には、避けた方がよい運動や、強度を調整した方がよい場合があります。
「糖尿病には筋トレがよい」と聞いて、
いきなり強い筋トレを始める必要はありません。
自分の体に合った方法を選びましょう。
今回のポイント
筋肉は、体を動かすだけの組織ではありません。
血液中のブドウ糖を取り込み、利用する大切な場所でもあります。
だからこそ糖尿病では、
ウォーキングなどの有酸素運動だけでなく、筋肉を使う運動にも意味があります。
そして減量中には、
余分な体脂肪を減らしながら、筋肉をできるだけ保つ
という視点が重要です。
筋トレといっても、重いバーベルを持つ必要はありません。
まずは椅子からの立ち座りなど、自分にできるところから。
大切なのは、
一度にたくさんすることではなく、無理なく続けることです。
では、有酸素運動と筋トレ。
結局、糖尿病にはどちらがよいのでしょうか?
次回はこの疑問に答えます。
次回
有酸素運動と筋トレ、どちらが糖尿病にいい?―「どちらか」ではなく組み合わせる
ウォーキングを30分するのと、スクワットをするのではどちらがよい?
自転車に乗っていれば筋トレはしなくてもよい?
第10回では、有酸素運動と筋力トレーニングの役割の違いを整理して、「では実際に1週間でどう組み合わせるか」まで考えます。
医療情報について
この記事は糖尿病の運動療法について一般的な医学情報を提供するものです。適切な運動の種類、強度、回数は、年齢、体力、治療内容、合併症などによって異なります。
心血管疾患、増殖網膜症などの眼合併症、神経障害、足病変などがある方や、インスリン・低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方は、筋力トレーニングを含む運動内容について主治医にご相談ください。

