「体重を落とす」だけでいい?―ヒルクライムから考える糖尿病の食事と運動

食事と運動をもう一歩深く

食事と運動をもう一歩深く 第1回

私は以前、自転車のヒルクライムレースに参加していました。

ヒルクライムとは、自転車で山を登り、そのタイムを競う競技です。

私が参加していたレースの一つに「富士ヒルクライム」があります。

富士山の麓から五合目を目指して登っていく人気の大会で、距離は約24km、標高差は約1,200mあります。

平地を走る自転車競技とは少し違い、長い上り坂では、自転車だけでなく自分自身の体重も重力に逆らって上へ運び続けなければなりません。

そのため、同じ力を出せるのであれば、体重が軽い方が有利になります。

私もレースに参加していた頃は、タイムや順位を上げるために体重を意識していました。

しかし、そこで気づくことがあります。

ただ体重を落とせばいいわけではない

たとえば、食事を極端に減らせば体重は落ちるかもしれません。

でも、そのときに脂肪だけでなく筋肉まで減ってしまったらどうでしょう。

体重は軽くなっても、自転車をこぐ力まで弱くなってしまいます。

これでは、せっかく減量してもパフォーマンスが落ちてしまいます。

そこで大切になるのが、

「何kg減らすか」だけではなく、「何を減らすか」

という考え方です。

減らしたいのは、できるだけ余分な体脂肪。

一方で、筋肉はできるだけ維持したい。

そのためには、食事と運動の両方を考える必要があります。

この考え方は糖尿病にも通じるところがあります

もちろん、ヒルクライムレースのための減量と、糖尿病の治療は同じものではありません。

競技ではタイムや順位を上げることが目的ですが、糖尿病治療の目的は、血糖を適切に管理し、将来の合併症を予防しながら健康な生活を続けることです。

それでも、両者には共通して考えられる部分があります。

体重が多い方では、体脂肪の蓄積がインスリン抵抗性と関係していることがあります。

インスリン抵抗性とは、簡単にいえば、インスリンが効きにくくなっている状態です。

そのような場合には、適切に体重を減らすことでインスリンが働きやすくなり、血糖値が改善することがあります。

しかし、ここでも、

「とにかく体重を減らせばよい」

というわけではありません。

体重計の数字だけでは分からない

たとえば、同じ「2kg減った」でも、中身は同じとは限りません。

減ったものが、

  • 体脂肪なのか
  • 筋肉なのか
  • 水分なのか

によって意味は大きく違います。

特に中高年になると、体重を落とすことだけを意識して食事を減らしすぎると、筋肉まで失ってしまうことがあります。

筋肉は、立つ、歩く、階段を上るといった日常生活に必要なのはもちろんですが、糖尿病を考えるうえでも大切な組織です。

筋肉は、血液中のブドウ糖を取り込んで利用する大きな場所の一つだからです。

ですから糖尿病の食事・運動療法では、

体重だけでなく、「脂肪」と「筋肉」を考える

という視点がとても大切です。

食事だけでも、運動だけでもない

「体重を減らすなら、食べる量を減らせばいい」

と思うかもしれません。

反対に、

「たくさん運動すれば、好きなだけ食べても大丈夫」

と思う方もいるかもしれません。

実際には、どちらもそれほど単純ではありません。

私自身、ヒルクライムに取り組んでいたときも、

食べることと、動くこと。

この二つを切り離して考えることはできませんでした。

これは糖尿病の治療でも同じです。

食事と運動は別々の治療のように見えますが、実際にはお互いに深く関係しています。

このシリーズで考えていきたいこと

Ikegishi Diabetes Noteではこれまでにも、食事や運動について患者さんからよくいただく質問を取り上げてきました。

この「食事と運動をもう一歩深く」シリーズでは、そこからもう一段だけ踏み込んで、

「なぜそうなるのか?」

という体の仕組みまで、できるだけわかりやすく考えていきたいと思います。

たとえば、

体重が減るとき、体の中では何が減っているのでしょうか。

体脂肪はどうして増えるのでしょうか。

糖質を減らせば脂肪は減るのでしょうか。

減量するとき、なぜたんぱく質や筋肉が大切なのでしょうか。

ウォーキングや自転車などの有酸素運動と、筋力トレーニングでは何が違うのでしょうか。

運動しているのに体重が減らなくても、意味はあるのでしょうか。

こうした疑問を、一つずつ取り上げていきます。

難しい栄養学や運動生理学の授業をすることが目的ではありません。

「なるほど。だから食事と運動が大切なのか」

と納得して、毎日の生活に少し取り入れられることを目標にします。

競技選手のように頑張る必要はありません

最後に、一つ大切なことがあります。

このシリーズで私自身のヒルクライムの経験を紹介しますが、糖尿病の患者さんに競技選手のような運動や減量をおすすめするものではありません。

必要な運動量や適切な体重は、年齢、体力、治療内容、合併症などによって一人ひとり違います。

ヒルクライムでは「少しでも速く」という目標がありました。

しかし、糖尿病の運動療法では、速さや順位を競う必要はありません。

大切なのは、

無理なく、自分に合った方法で、続けること。

そして減量が必要な場合にも、

「できるだけ軽くなる」ことではなく、筋肉をできるだけ保ちながら、余分な体脂肪を減らしていくこと

を考えていきます。

このシリーズを通して、食事と運動を「我慢しなければならないもの」ではなく、

自分の体の仕組みを知り、より健康に過ごすための方法

として一緒に考えていきたいと思います。


次回

「体重が減る」とき、何が減っている?―脂肪・筋肉・水分の違い

「1kgやせた!」

その1kgは、本当に脂肪が1kg減ったのでしょうか。

実は、体重計に表示される数字だけでは、体の中で何が変化したのかは分かりません。

次回は、体重・体脂肪・筋肉・水分の違いから、減量の基本を考えてみます。


医療情報について

この記事は、糖尿病の食事療法・運動療法について一般的な医学情報をわかりやすくお伝えすることを目的としています。

適切な体重や運動量、食事内容は、年齢、体格、体力、糖尿病治療薬、合併症などによって異なります。特に心血管疾患、腎臓病、網膜症、神経障害などがある方や、インスリン・低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方は、運動や減量を始める前に主治医へご相談ください。