食事と運動をもう一歩深く 第14回・最終回
ここまで13回にわたって、糖尿病の食事と運動について考えてきました。
体重を減らすとはどういうことか。
脂肪と筋肉はどう違うのか。
食べる量をどう考えるのか。
有酸素運動と筋トレにはどんな役割があるのか。
食後に動くことにはどんな意味があるのか。
そして、どうすれば無理なく続けられるのか。
いろいろな話をしてきました。
ここまで読むと、逆にこんな疑問が出てくるかもしれません。
「それで、私は結局何をすればいいのでしょう?」
最終回では、そこを整理してみましょう。
結論から言えば、特別に複雑なことをする必要はありません。
大切なのは、
食事と運動を別々の「課題」にするのではなく、自分の一日の生活の中に組み込むこと
です。
まず「体重を減らす必要があるか」から考える
このシリーズでは減量について何度も取り上げてきました。
しかし、糖尿病があるからといって、すべての人が体重を減らす必要があるわけではありません。
体格、年齢、筋肉量、栄養状態、合併症などによって目標は異なります。
特に高齢の方ややせている方では、むやみに食事量を減らすことで筋肉まで減り、かえって体力が低下することがあります。
ですから最初の問いは、
「どうすればやせるか?」
ではなく、
「自分にとって体重を減らすことが必要なのか?」
です。
必要なら、余分な脂肪を減らしながら筋肉をできるだけ守る。
必要でなければ、体重を減らすことを目標にしない。
ここを間違えないことが大切です。
食事は「減らす」だけではありません
糖尿病の食事療法というと、
「ご飯を減らす」
「甘いものをやめる」
という話になりがちです。
でも、第5~7回で見てきたように、食事はもっと全体で考えます。
糖質だけを悪者にしない。
たんぱく質や脂質も含めて考える。
飲み物や間食も振り返る。
そして何より、
続けられる食べ方を見つける。
食事は毎日のことです。
一週間だけ完璧にできる食事より、何年も続けられる食事のほうが糖尿病治療には向いています。
運動も「カロリーを消費するため」だけではありません
運動というと、
「食べた分を消費する」
というイメージが強いかもしれません。
でも、第8~12回で見てきたように、それだけではありません。
筋肉を動かすことでブドウ糖を利用する。
インスリンの働きを改善する。
筋肉や筋力を保つ。
体力を高める。
座っている時間を減らす。
そして、将来も自分の足で生活していくための体を作る。
こうした効果は、必ずしも体重計には表示されません。
だから、
「運動したのに体重が減らなかった=失敗」
ではありません。
食事と運動は別々に考えなくてもいい
ここが今回、一番お伝えしたいところです。
たとえば夕食を考えてみましょう。
食事では、
「今日は少し野菜を増やしてみよう」
「ご飯を極端に減らすのではなく、自分に合った量にしよう」
と考える。
そして食べ終わったら、
「10分くらい歩いてみよう」
と考える。
これだけで、
食事療法と運動療法が一つの生活の流れになります。
「今日は食事療法をした」
「次は運動療法をしなければ」
と二つの宿題にする必要はありません。
たとえば、こんな一日でもいい
糖尿病に「理想の一日」が一つだけあるわけではありません。
一例として考えてみます。
朝
朝食を極端に抜いたり減らしたりせず、自分に合った量を食べる。
通勤や買い物で少し歩く。
昼
普通に昼食を食べる。
時間があれば、食後に少し歩く。
できなければ、それでも構いません。
夕方
エレベーターではなく階段を使える日は使う。
あるいは少し遠回りして歩く。
夕食後
10分程度歩く、片づけをするなど、少し体を動かす。
週に何日か
椅子からの立ち座りなど、簡単な筋力トレーニングを取り入れる。
これだけでも、
食事、有酸素運動、筋肉への刺激、食後活動、日常活動
が一日の生活の中につながってきます。
これはあくまで一例です。
仕事、年齢、体力、家族構成によって、できることは違います。
自分の生活に合う形に変えてください。
「運動する時間がない」なら生活の中を探す
30分のウォーキング時間を新しく作るのが難しい方もいます。
その場合は、
「運動時間を作る」ことだけを考えなくても構いません。
駅まで歩く。
少し遠い駐車場所を選ぶ。
階段を使う。
買い物で歩く。
食後に片づけをする。
こうした活動も、体を動かす時間です。
特別な運動と日常生活を完全に分けず、
一日の中で「座っていない時間」を少し増やす
という考え方もできます。
「今日はできなかった」を失敗にしない
昨日は歩いた。
今日は歩けなかった。
それで構いません。
第13回でお話ししたように、大切なのは、
失敗しないことではなく、戻れることです。
一週間運動できなかったら、次の週にまた始める。
旅行で食べすぎたら、帰ってから普段の食事に戻す。
忙しい時期には運動量を減らし、余裕が出たらまた増やす。
生活には波があります。
治療も、その波に合わせて調整してよいのです。
「頑張った量」ではなく「続いた時間」を見る
糖尿病は、短距離走ではありません。
一週間ものすごく頑張ることより、
半年、一年と続けられること
のほうが重要です。
これは私がヒルクライムをしていたときにも感じたことです。
一日だけ限界まで練習しても、それだけで速くなるわけではありません。
練習する。
休む。
食べる。
また走る。
その繰り返しで、少しずつ体が変わっていきます。
糖尿病の食事と運動も、それに似ています。
体重計だけをゴールにしない
このシリーズの第1回では、
「体重を落とすだけでいい?」
という問いから始めました。
最終回でも、答えは同じです。
体重は大切な指標の一つです。
しかし、すべてではありません。
血糖はどうなったか。
腹囲はどうか。
筋力は保たれているか。
以前より歩けるようになったか。
疲れにくくなったか。
そして、
その生活を無理なく続けられているか。
こうしたものも大切な成果です。
最初に変えるのは「一つ」でいい
ここまで14回読んで、
「食事も変えて、ウォーキングもして、筋トレもして、食後にも動かないと」
と思ったら、少し多すぎます。
明日から全部始める必要はありません。
まず一つ選んでみてください。
たとえば、
- 夕食後に10分歩く
- 甘い飲み物を一つ減らす
- 椅子からの立ち座りをする
- 一日のどこかで座っている時間を減らす
- 体重を週に何回か確認する
この中の一つでも構いません。
それが生活になじんだら、次を考えます。
小さな変化を重ねる。
そのほうが、結果として遠くまで進めることがあります。
ヒルクライムから糖尿病治療へ
このシリーズは、私が長く続けてきたヒルクライムの話から始まりました。
坂を速く登るには、体重を軽くすることが有利です。
しかし、ただ軽ければよいわけではありません。
筋肉を落として力が出なくなれば、坂は登れません。
食事を減らしすぎても、十分に走れません。
そして、一日だけ頑張っても強くはなりません。
食べること。
動くこと。
休むこと。
続けること。
それぞれがつながっています。
もちろん、糖尿病治療はレースではありません。
誰かと競争する必要もありません。
それでも、
自分の体を知り、無理のない方法を探し、少しずつ続ける
という点では、共通するところがあるように思います。
14回を通して、一番伝えたかったこと
食事療法は、
「食べてはいけないものを増やすこと」
ではありません。
運動療法は、
「つらい運動を頑張ること」
でもありません。
そして糖尿病治療は、
毎日100点を取る競争ではありません。
自分の体を知る。
自分の生活を知る。
できることを一つ見つける。
うまくいかなければ調整する。
そして、また続ける。
それでいいのです。
このシリーズの最後に残したい言葉は、
頑張る治療から、続けられる治療へ。
食事も運動も、
これからの人生を少しでも元気に過ごすための道具
として使っていきましょう。
「食事と運動をもう一歩深く」全14回
糖尿病の食事と運動について、「体重を減らす」だけではなく、体脂肪、筋肉、食事、運動、そして続け方まで順番に解説しています。
第1回 「体重を落とす」だけでいい?
― ヒルクライムから考える糖尿病の食事と運動
第2回 「体重が減る」とき、何が減っている?
― 脂肪・筋肉・水分の違い
第3回 体脂肪はなぜ増える?
― 「食べた量」と「使った量」の基本
第4回 体脂肪1kgを減らすには?
― 「約7,000kcal」をどう考えるか
第5回 糖質を減らせば体脂肪は減る?
― 糖質・脂質・エネルギーの関係
第6回 減量中こそ「たんぱく質」が大切?
― 筋肉を減らさないための食事
第7回 食べる量をどう減らす?
― 「我慢」ではなく続けられる食事の工夫
第8回 有酸素運動で脂肪は燃える?
― ウォーキングと自転車をどう考えるか
第9回 筋トレはなぜ糖尿病にいい?
― 筋肉と血糖の意外に深い関係
第10回 有酸素運動と筋トレ、どちらが糖尿病にいい?
― 「どちらか」ではなく組み合わせる
第11回 食後に動くとなぜ血糖が下がる?
― 食後運動と筋肉の糖取り込み
第12回 運動しても体重が減らない。それでも意味はある?
― 体重計に出ない運動の効果
第13回 リバウンドしないためには?
― 「頑張る減量」から「続けられる習慣」へ
第14回 食事と運動、結局どう組み合わせる?
― 「続けられる糖尿病治療」の作り方
医療情報について
この記事は、糖尿病の食事療法・運動療法・体重管理について一般的な医学情報を提供するものです。適切な食事量、運動内容、体重目標は、年齢、体格、治療薬、合併症、栄養状態などによって異なります。
特にインスリンや低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方、高齢の方、やせている方、低栄養の可能性がある方、心血管疾患、眼合併症、神経障害、足病変、腎臓病などがある方は、具体的な食事・運動について主治医や医療スタッフにご相談ください。

