食事と運動をもう一歩深く 第6回
「体重を減らしたいから、食事の量を減らしています」
減量を始めると、まず食べる量を減らそうと考える方は多いと思います。
もちろん、食べるエネルギーが使うエネルギーより多い状態が続いているのであれば、食事を見直すことは大切です。
しかし、ここまでこのシリーズでお話ししてきたように、
減量の目的は、体重計の数字だけを小さくすることではありません。
できるだけ筋肉を保ちながら、余分な体脂肪を減らしていく。
そのために考えておきたい栄養素の一つが、たんぱく質です。
そもそも、たんぱく質は何をしている?
たんぱく質というと、
「筋トレをしている人がとるもの」
というイメージがあるかもしれません。
しかし、たんぱく質はアスリートだけに必要な栄養素ではありません。
筋肉だけでなく、皮膚や臓器など、私たちの体を作るために使われています。
つまり、誰にとっても必要な栄養素です。
減量中は食事全体の量が少なくなりやすいため、
エネルギーだけでなく、必要な栄養素まで減らしすぎていないか
を考える必要があります。
減量すると筋肉も減ることがあります
「脂肪を落としたい」
と思って減量を始めても、実際に減るのは脂肪だけとは限りません。
第2回でお話ししたように、体重には脂肪、筋肉、水分などが含まれています。
食事を極端に減らしたり、ほとんど体を動かさなかったりすると、減量に伴って筋肉も失われることがあります。
特に高齢の方では注意が必要です。
筋肉が減り、筋力まで低下すると、
「歩くのがつらくなった」
「階段を上るのが大変になった」
「以前より疲れやすくなった」
といった問題につながることがあります。
ですから、
やせたけれど、弱くなってしまった
という減量は避けたいところです。
糖尿病でも筋肉は大切です
筋肉は、体を動かすためだけにあるわけではありません。
糖尿病との関係でも重要です。
食事から吸収されて血液中に入ったブドウ糖は、筋肉にも取り込まれてエネルギーとして利用されます。
また、筋肉を使う運動には、血糖を利用しやすくしたり、インスリンの働きを改善したりする効果があります。
そのため、
体脂肪を減らしながら筋肉をできるだけ維持する
という考え方は、糖尿病の体重管理でも重要です。
では、たんぱく質をたくさん食べればいい?
ここで話が少し難しくなります。
「筋肉を減らしたくない」
↓
「たんぱく質が大切」
↓
「それなら、たんぱく質をたくさん食べればいい」
とは限りません。
筋肉を維持するために必要なのは、たんぱく質だけではないからです。
食事から必要な栄養をとること。
そして、
実際に筋肉を使うこと。
この両方が大切です。
たんぱく質をたくさん食べるだけで、運動をしなくても筋肉がどんどん増えるわけではありません。
食事と運動をセットで考える
これは、このシリーズ全体でお伝えしたいことでもあります。
食事と運動は別々ではありません。
減量中に筋肉を保ちたいのであれば、
必要な栄養をとること
と
筋肉に適切な刺激を与えること
を組み合わせて考えます。
ウォーキングや自転車などの有酸素運動にも大切な役割がありますが、筋肉を維持するという点では、筋力トレーニングも重要になります。
筋力トレーニングについては、このシリーズの後半で詳しく説明します。
たんぱく質は何からとる?
たんぱく質を含む食品には、いろいろあります。
肉、魚、卵、乳製品、大豆・大豆製品などです。
「たんぱく質をとる」と聞くと、すぐにプロテインを思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし、まずは普段の食事を振り返ってみましょう。
「朝食はパンとコーヒーだけ」
「昼食は麺だけ」
というような食事が続いている場合には、
主食だけでなく、たんぱく質を含む食品が入っているか
という視点で見てみるのも一つの方法です。
「プロテインを飲んだ方がいいですか?」
これもよくある疑問です。
プロテイン製品は、たんぱく質を補うための食品です。
便利な場合もありますが、
糖尿病だから全員が飲む必要があるものではありません。
普段の食事で必要量をとれているのであれば、必ずしも追加する必要はありません。
また、製品によってエネルギー量や糖質なども異なります。
「健康によさそうだから」と無条件に追加すると、かえって摂取エネルギーが増える場合もあります。
糖尿病では「腎臓」も忘れてはいけません
ここは特に大切です。
糖尿病の患者さんでは、腎臓の働きが低下していることがあります。
そして腎臓病がある場合、たんぱく質の適切な摂取量については、腎機能、栄養状態、治療内容などを考えて個別に判断する必要があります。
したがって、
「筋肉にいいから高たんぱく食にしよう」
と自己判断することはおすすめできません。
特に腎機能が低下している方は、主治医や管理栄養士と相談してください。
糖尿病の食事療法では、
血糖だけを見るのではなく、腎臓や栄養状態も一緒に見る
ことが重要です。
高齢になるほど「やせればよい」とは限らない
若い頃に体重が多かった方が、年齢を重ねても、
「もっとやせなければ」
と思い続けていることがあります。
しかし、年齢とともに状況は変わります。
特に高齢者では、体重を落とすこと以上に、筋肉や栄養状態を保つことが重要になる場合があります。
糖尿病があるからといって、
すべての人に減量が必要なわけではありません。
ここでも、一人ひとりの状態を見ることが大切です。
ヒルクライムでも「軽さ」と「力」の両方が必要でした
私がヒルクライムレースに参加していたときも、体重を軽くすることだけを考えていたわけではありません。
坂道では体重が軽いことは有利です。
しかし、自転車を前に進めるには筋肉が必要です。
食事を極端に減らして、
体重は減ったけれど、ペダルを踏む力も落ちた
のでは意味がありません。
必要なのは、
余分な体脂肪を減らしながら、走るための力をできるだけ保つこと。
糖尿病治療と競技は目的が違いますが、
「軽くなればなるほどよいわけではない」
という点は共通しています。
「体重」ではなく「体の機能」にも目を向ける
減量をすると、どうしても体重計の数字ばかり見てしまいます。
しかし、
「以前より長く歩けるようになった」
「階段が楽になった」
「疲れにくくなった」
「運動する習慣がついた」
という変化も、とても大切です。
体重が思ったほど減っていなくても、体力や血糖が改善していることがあります。
体重計に表示されない変化も評価する。
これを忘れないでください。
今回のポイント
減量するときには、体脂肪だけでなく筋肉も減ることがあります。
そのため、
必要な栄養を確保すること
と
筋肉を使うこと
の両方を考えることが大切です。
たんぱく質は筋肉を含む体を作る重要な栄養素ですが、
「多ければ多いほどよい」わけではありません。
特に糖尿病では、腎機能や年齢、栄養状態によって適切な食事は変わります。
目標は、
ただ軽い体ではなく、健康に動ける体。
そのための食事を考えていきましょう。
次回
食べる量をどう減らす?―「我慢」ではなく続けられる食事の工夫
ここまで、エネルギー、糖質、脂質、たんぱく質について考えてきました。
では実際に減量が必要な場合、
「明日から何を変えればいいのでしょうか?」
第7回では、カロリー計算だけに頼らず、主食・間食・飲み物・外食など、普段の食生活の中で無理なく調整できる場所を探す方法を考えます。
医療情報について
この記事は、糖尿病の食事療法・運動療法について一般的な医学情報を提供するものです。適切なたんぱく質摂取量や減量の必要性は、年齢、体格、身体活動量、腎機能、栄養状態、治療内容などによって異なります。
特に腎臓病がある方、高齢の方、やせている方、低栄養の可能性がある方は、自己判断で高たんぱく食や大幅な食事制限を行わず、主治医や管理栄養士にご相談ください。

