食事と運動をもう一歩深く 第3回
「そんなに食べているつもりはないのに、なぜか体重が増えてしまう」
糖尿病の診療をしていると、よく聞く言葉です。
反対に、
「運動を始めたのに、なかなか体重が減らない」
という方も少なくありません。
体重や体脂肪の話になると、
「炭水化物が悪い」
「脂質を食べると太る」
「夜に食べると太る」
「運動すればやせる」
など、いろいろな情報を耳にします。
どれも一部分では関係していますが、その前に知っておきたい、とても基本的な考え方があります。
それが、
食事から体に入ってくるエネルギーと、体が使うエネルギーのバランス
です。
私たちは食事からエネルギーをもらっています
車を走らせるには燃料が必要です。
同じように、私たちの体も動くためにエネルギーを必要とします。
歩く、自転車に乗る、仕事をする。
もちろん、運動するときにもエネルギーを使います。
しかし、エネルギーを使うのは運動しているときだけではありません。
眠っている間にも、心臓は動いています。
呼吸もしています。
体温も保たなければなりません。
つまり私たちは、何もしないでじっとしているときにもエネルギーを使っています。
そのエネルギーのもとになるのが食事です。
食べたエネルギーを全部使い切らなかったら?
ここで簡単に考えてみましょう。
1日に体が使うエネルギーより、食事から入ってくるエネルギーの方が多い状態が続いたらどうなるでしょう。
余ったエネルギーを毎日すべて捨ててしまうわけではありません。
体は、将来必要になったときに使えるようにエネルギーを蓄えます。
その重要な貯蔵方法の一つが体脂肪です。
つまり、
入ってくるエネルギー > 使うエネルギー
という状態が長く続けば、余ったエネルギーが蓄積され、体脂肪が増えやすくなります。
逆に、
入ってくるエネルギー < 使うエネルギー
という状態が続けば、体は蓄えていたエネルギーを利用する必要が出てきます。
これが減量の基本です。
では「食べなければいい」のでしょうか?
ここで注意が必要です。
「それなら食べる量を思い切り減らせば、どんどん脂肪が減る」
というほど単純ではありません。
第2回でお話ししたように、私たちが減らしたいのは体重計の数字だけではありません。
極端な食事制限をすれば、脂肪だけでなく筋肉も減ってしまうことがあります。
必要な栄養素が不足したり、空腹が強すぎて長続きしなかったりすることもあります。
短期間で体重を落としても、その食生活を続けられず、元の食事に戻って体重も戻ってしまえば、長期的な糖尿病治療としてはうまくいきません。
ですから、このシリーズで目指すのは、
「できるだけ食べない」ことではありません。
必要な栄養をとりながら、余分なエネルギーを少しずつ減らす。
という考え方です。
「そんなに食べていないのに」は間違い?
「私はそんなに食べていません」
と話す患者さんがいます。
これは必ずしも間違いではありません。
実際、食事の量そのものは多くない方もいます。
ただし、エネルギーは「食事の見た目の量」だけでは分かりません。
たとえば、飲み物、間食、調味料などにもエネルギーがあります。
また、以前と同じ量を食べていても、年齢や活動量の変化などによって、消費するエネルギーが変わっていることもあります。
つまり、
「食べすぎているか」だけでなく、「自分がどれくらい使っているか」
も一緒に考える必要があります。
ここに、食事と運動をセットで考える意味があります。
運動すると、どれくらいやせる?
「では、食事を変えずに運動だけたくさんすればいいのでは?」
と思うかもしれません。
運動は糖尿病治療にとても大切です。
しかし、
運動=すぐに大きく体重が減る
とは限りません。
運動によって消費するエネルギーは確かに増えますが、それだけで大幅なエネルギー不足を作るのは簡単ではありません。
一方、運動には体重計だけでは見えない大切な効果があります。
筋肉がブドウ糖を利用しやすくなったり、インスリンの働きが改善したり、体力や筋力を維持したりすることです。
ですから、
食事は体重管理に、運動は健康に
と完全に分けるのでもありません。
食事と運動の両方が、体重、体脂肪、筋肉、そして血糖に関係しています。
ヒルクライムでは「軽さ」だけでは足りませんでした
ヒルクライムレースでも、このエネルギーの考え方は重要でした。
体重を減らすだけなら、食事を大きく減らせばよいかもしれません。
しかし、長い坂道を自転車で登るにはエネルギーが必要です。
食事を減らしすぎて、練習する力までなくなってしまったら意味がありません。
また筋肉が減って、ペダルを踏む力が低下してしまっても困ります。
そこで、
「軽くなること」と「動けること」の両方を考える
必要がありました。
糖尿病治療でも競技のような減量は必要ありませんが、
「食べる量を減らせば減らすほどよいわけではない」
という点は共通しています。
「少し」の積み重ねを考える
エネルギー収支というと、
「毎日きっちりカロリー計算をしなければいけないの?」
と思うかもしれません。
必ずしもそうではありません。
毎日の食事をすべて計算することが負担になり、それが続かないのであれば本末転倒です。
まずは、
「毎日飲んでいる甘い飲み物はどうだろう」
「何となく食べているお菓子はないだろうか」
「ご飯の盛り方が少しずつ多くなっていないだろうか」
「以前より歩かなくなっていないだろうか」
など、自分の生活を振り返るところから始めても構いません。
一つ一つは小さな違いでも、それが毎日続けば長い期間では大きな違いになります。
これは運動も同じです。
一度だけものすごく運動するより、
少しでも日常的に体を動かす。
その方が続けやすい人も多いでしょう。
体重は「算数」だけでは説明できません
ここも大切です。
エネルギー収支は体重管理の基本ですが、人間の体を単純な足し算・引き算だけで説明することはできません。
年齢、性別、筋肉量、活動量、睡眠、病気、薬など、さまざまな要素が関係します。
また、同じ食事、同じ運動をしても、全員が同じように体重が変化するわけではありません。
ですから、
「やせないのは努力が足りないから」
と考える必要はありません。
体重が思うように変わらないときは、「もっと我慢しよう」と考える前に、食事、活動量、治療などを一度整理してみることが大切です。
今回のポイント
体脂肪が増える仕組みを理解する第一歩は、
「食べたエネルギー」と「使ったエネルギー」のバランス
を考えることです。
食べる量が多いか少ないかだけではなく、日常生活でどれくらい体を動かしているかも関係します。
そして減量するときには、
食事を極端に減らすのではなく、筋肉をできるだけ保ちながら、余分な体脂肪を少しずつ減らしていく。
これが基本になります。
ところで、
「体脂肪1kgを減らすには、いったいどれくらいのエネルギーを減らせばいいの?」
と疑問に思いませんか。
次回は、ここをもう少し具体的な数字で考えてみます。
次回
体脂肪1kgを減らすには?―「7,000kcal」をどう考えるか
「1kgやせたい」と思ったとき、1日で何とかする必要はありません。
むしろ、小さなエネルギー差を積み重ねると考えた方が現実的です。
「体脂肪1kg≒約7,000kcal」というよく知られた目安を使いながら、1か月で考えると1日あたりどのくらいになるのかを分かりやすく説明します。
医療情報について
この記事は、糖尿病の食事療法・運動療法に関する一般的な医学情報を提供するものです。適切な摂取エネルギーや減量目標は、年齢、体格、身体活動量、治療内容、合併症などによって異なります。
特に高齢の方、やせている方、低栄養の可能性がある方、腎臓病などで食事療法を行っている方は、自己判断で大幅な食事制限を行わず、主治医や管理栄養士にご相談ください。

