糖尿病の薬を飲んでいてもHbA1cが下がらないのはなぜ?薬を増やす前に確認したいこと

糖尿病の薬をきちんと飲んでいるのに、

「HbA1cがなかなか下がりません」
「薬が効いていないのでしょうか?」
「また薬を増やすと言われそうで心配です」
「もっと食事を減らさないといけませんか?」

と悩むことがあります。

薬を飲んでいるのにHbA1cが改善しないと、

「自分の努力が足りない」

と考えてしまう方もいます。

しかし、HbA1cが下がらない理由は一つではありません。

結論からいうと、

HbA1cが改善しない=薬が効いていない、とは限りません。

薬を増やす前に、

「なぜHbA1cが高いのか」

を整理することが大切です。

まずHbA1cとは?

HbA1cは、最近の血糖状態を反映する大切な検査です。

その日の食事だけで大きく変わる血糖値とは違い、ある程度長い期間の血糖状態を見ることができます。

そのため、

「昨日食べすぎたから今日のHbA1cが急に上がった」

というものではありません。

一方で、治療を始めた直後にHbA1cがすぐ大きく変化するとも限りません。

一回の数字だけでなく、時間的な変化を見ることが大切です。

原因① 薬を始めてから、まだ十分な期間がたっていない

薬を開始したり変更したりすると、

「次の週にはHbA1cが下がるはず」

と思うかもしれません。

しかしHbA1cは、直近だけではなく、それ以前の血糖値の影響も受けています。

そのため、新しい治療の効果がHbA1cに十分反映されるまでには時間がかかります。

薬を始めて間もない場合には、HbA1cだけでなく、日々の血糖値なども参考にしながら効果を判断します。

原因② 朝の血糖値と食後の血糖値は違う

「朝の血糖値はそれほど高くないのに、HbA1cが高い」

ということがあります。

この場合、食後に血糖値が大きく上昇している可能性があります。

反対に、

「食後はそれほど高くないのに、朝の血糖値が高い」

という方もいます。

つまり、

HbA1cが高いという情報だけでは、いつ血糖値が上がっているのかまでは分かりません。

朝なのか、食後なのか、夜なのか。

血糖値が上がる時間帯を考えることで、治療方法を検討しやすくなります。

原因③ 食事の「量」だけが問題とは限らない

HbA1cが高いと、

「食べすぎです」

と言われるのではないかと心配する方がいます。

もちろん食事は血糖管理に大きく関係します。

しかし、

単純に食事量だけの問題とは限りません。

たとえば、

食べる時間
間食
甘い飲み物
外食の頻度
朝食を抜いて夕食が多くなる
食事量のばらつき

なども血糖値に影響することがあります。

「もっと食べる量を減らす」

だけではなく、

自分の食生活のどこが血糖値に影響しているのか

を考える方が大切です。

原因④ 運動量が変化している

運動は血糖管理に役立ちます。

しかし、

仕事が忙しくなった
暑くて外出が減った
膝や腰が痛い
入院後に体力が落ちた
高齢になって活動量が減った

など、知らないうちに日常の活動量が減っていることがあります。

以前と同じ食事や薬でも、活動量が変われば血糖値が変化する可能性があります。

だからといって、

「HbA1cを下げるために急に激しい運動をする」

必要はありません。

できる範囲で日常の活動を増やすことから考えます。

原因⑤ 体重が変化している

体重の増加に伴ってインスリンが効きにくくなり、血糖値が上昇することがあります。

一方で、

体重が減れば必ず良い

とも限りません。

特に高齢の方で、

食欲がない
筋肉が減っている
意図せず体重が減っている

場合には、単純に「もっと痩せましょう」と考えるべきではありません。

体重は数字だけではなく、

なぜ増えたのか、なぜ減ったのか

を見ることが大切です。

原因⑥ 薬を飲めていない日がある

これは珍しいことではありません。

糖尿病だけでなく、

血圧
コレステロール
心臓
腎臓

などの薬も飲んでいると、薬の管理は複雑になります。

「朝は忙しくて忘れる」
「昼の薬は仕事中なので飲めない」
「外食すると忘れる」

ということもあります。

飲み忘れがあることを、診察で隠す必要はありません。

むしろ、

実際にどの程度飲めているのかを伝えることが、適切な治療につながります。

飲み忘れている状態で薬をさらに追加すると、治療が必要以上に複雑になることもあります。

原因⑦ 飲み方が生活に合っていない

「食前の薬を忘れてしまう」
「昼の薬だけどうしても飲めない」

という場合には、意志の問題だけとは限りません。

治療方法が生活スタイルに合っていない可能性があります。

薬によっては、

服用回数を見直す
別の薬へ変更する
配合剤を利用する

などの方法を検討できる場合があります。

続けられない治療を我慢するより、続けられる治療に調整すること

も大切です。

原因⑧ 病気やストレスで血糖値が上がることがある

発熱や感染症など、体に強い負担がかかると血糖値が上昇することがあります。

食事をあまり食べていないのに、

「風邪をひいたら血糖値が高くなった」

ということもあります。

これは病気によるストレスに対して、血糖値を上げるホルモンが増えることなどが関係しています。

したがって、

食べていないのに血糖値が高い=おかしい

とは限りません。

体調不良時には、シックデイとしての対応が必要になる場合があります。

原因⑨ ほかの薬が血糖値に影響することもある

糖尿病以外の治療薬の中には、血糖値に影響するものがあります。

代表的なものとして、副腎皮質ステロイドがあります。

そのほかにも治療内容によって血糖管理が変化することがあります。

「最近、新しい薬が追加された」

という場合には、糖尿病の主治医にも伝えてください。

複数の医療機関を受診している場合には、お薬手帳を見せることが役立ちます。

原因⑩ 糖尿病そのものが変化していることがある

2型糖尿病では、時間の経過とともにインスリンを分泌する力などが変化することがあります。

そのため、

以前は1種類の薬で十分だった
↓
数年後、同じ治療ではHbA1cが上がってきた

ということがあります。

これは必ずしも、

「薬に慣れてしまった」
「自分が努力しなくなった」

からではありません。

現在の体の状態に、以前の治療が合わなくなってきた

可能性があります。

その場合には薬を追加したり変更したりすることが、適切な治療になります。

原因⑪ HbA1cと実際の血糖値が合わないこともある

ここは少し専門的ですが、大切です。

HbA1cは非常に便利な指標ですが、どんな場合でも血糖値を完全に表しているわけではありません。

赤血球の状態が変化すると、実際の血糖状態とHbA1cが合わなくなることがあります。

たとえば、

貧血
出血
輸血
赤血球の寿命が変化する病気や状態
高度な腎機能低下

などでは、HbA1cの解釈に注意が必要になることがあります。

したがって、

血糖値はそれほど高くないのにHbA1cだけが高い、あるいはその逆

という場合には、HbA1c以外の情報も含めて考えます。

「HbA1cが下がらないから薬を増やす」だけでいい?

薬の追加が必要なことはもちろんあります。

しかし、その前に、

なぜ高いのか
いつ血糖値が高いのか
薬を実際に飲めているか
低血糖は起きていないか
生活や体調に変化がなかったか

などを確認することが重要です。

原因が、

「昼の薬をほとんど飲めていなかった」

のであれば、さらに薬を追加するより、治療方法を簡単にする方がよい場合もあります。

HbA1cを下げるために食事を極端に減らしていい?

おすすめできません。

HbA1cが高いと言われると、

「ご飯を半分にしよう」
「夕食を抜こう」
「もっと痩せよう」

と考える方がいます。

しかし、極端な食事制限は、

低血糖
栄養不足
筋肉量の低下

などにつながることがあります。

特に高齢の方や痩せている方では注意が必要です。

HbA1cだけを下げることが糖尿病治療の目的ではありません。

薬を増やすことは治療の失敗ではありません

原因を確認したうえで薬の追加が必要なら、それは悪いことではありません。

糖尿病の状態は時間とともに変化します。

治療も、

薬を追加する
薬を変更する
薬を減らす
インスリンを利用する

など、その時々に合わせて変化します。

薬が増えた=自分の努力が足りなかった

と考える必要はありません。

診察前に確認しておくと役立つこと

HbA1cが上がってきたときには、

① 薬を飲み忘れることがなかったか

② 朝と食後では、どちらの血糖値が高いか

③ 最近、体重が変化していないか

④ 食事・間食・運動量が変化していないか

⑤ 発熱や感染症などがなかったか

⑥ 新しい薬が追加されていないか

などを振り返ってみると役立ちます。

すべてを完璧に記録する必要はありません。

分かる範囲で主治医に伝えてください。

今日覚えてほしい3つのこと

① HbA1cが下がらない理由は、「薬が効かない」「食べすぎ」だけではありません

② 薬を増やす前に、血糖値が高い時間帯、飲み忘れ、生活や体調の変化などを確認することが大切です

③ 必要な場合に薬を追加・変更することは、治療の失敗ではありません

まとめ

糖尿病の薬をきちんと使っていても、HbA1cがなかなか下がらないことがあります。

そのとき、

「もっと食事を減らさなければ」
「もっと運動しなければ」
「薬が効かなくなったのでは」

と一つの原因に決めつける必要はありません。

HbA1cが高い背景には、

食事
運動
体重
薬の飲み方
体調
ほかの薬
糖尿病そのものの変化

など、さまざまな要因があります。

そして、ときにはHbA1cと実際の血糖状態が一致しにくい場合もあります。

大切なのは、

「数字を下げるために、さらに頑張る」ことではなく、「なぜこの数字になっているのか」を考えることです。

原因が分かれば、

生活を少し調整する
薬を飲みやすくする
薬を変更する
必要なら薬を追加する

など、次の方法を選びやすくなります。

糖尿病治療は、

HbA1cの数字だけを追いかける治療ではありません。

自分の生活に合った方法で、安全に続けられる治療を一緒に探していきましょう。

参考文献・情報源

日本糖尿病学会 編・著.糖尿病診療ガイドライン2024.南江堂,2024.

日本糖尿病学会 編・著.糖尿病治療ガイド2024.文光堂,2024.