インスリンを始めたら糖尿病は重症?一度始めたらやめられないの?

糖尿病の診察で、

「そろそろインスリン治療を考えましょう」

と言われると、不安になる方は少なくありません。

「インスリンを使うほど糖尿病が悪くなったの?」
「一度始めたら一生注射しなければならない?」
「自分が食事療法を頑張らなかったから?」
「インスリンを始めたら、もう最後なのでは?」

このように考えて、インスリン治療をできるだけ避けたいと思う方もいます。

しかし、

インスリンを始めることは、糖尿病治療の「失敗」を意味するものではありません。

また、2型糖尿病では、

一度インスリンを始めたら、必ず一生続けなければならないとも限りません。

インスリンは、必要なときに血糖を適切に管理するための大切な治療法の一つです。

そもそもインスリンとは?

インスリンは、もともと私たちの体の中にあるホルモンです。

膵臓から分泌され、血液中のブドウ糖を体の細胞が利用できるようにするなど、血糖値を調節する大切な働きをしています。

糖尿病では、

インスリンが十分に分泌されない
インスリンが効きにくくなる
その両方が起こる

などによって、血糖値が高くなります。

つまり、インスリン治療は、

体にまったく関係のない特別な薬を入れる治療ではありません。

体の中で不足しているインスリンを補ったり、必要な量を追加したりする治療です。

インスリンを始めると「重症」ということ?

必ずしもそうではありません。

インスリンが必要になる理由はさまざまです。

血糖値がかなり高い。

飲み薬などだけでは十分に血糖管理ができない。

体調を崩して一時的に血糖値が上がっている。

手術や入院などで血糖管理が必要になった。

ほかの病気や治療の影響で血糖値が上がった。

このような場合にもインスリンが使われることがあります。

そのため、

「インスリンを使っている人=重症の糖尿病」

と単純に考えることはできません。

1型糖尿病と2型糖尿病では意味が違います

ここはとても大切です。

1型糖尿病では、自分の体から分泌されるインスリンが著しく不足するため、基本的にインスリン治療が必要です。

インスリンを自己判断で中止すると、糖尿病性ケトアシドーシスなどの危険な状態につながる可能性があります。

一方、2型糖尿病では、インスリンの分泌低下や効きにくさの程度は人によって違います。

そのため、食事や運動、飲み薬などで治療できる方もいれば、インスリンが必要になる方もいます。

「糖尿病ならインスリンを使う」「インスリンを使ったら重症」という単純な関係ではありません。

2型糖尿病でインスリンを始めるのはなぜ?

2型糖尿病は、長い経過の中で状態が変化することがあります。

以前は飲み薬だけで十分だった方でも、インスリンを分泌する力などが変化し、血糖値が上がってくることがあります。

そのようなとき、

「もっと食事を減らしてください」
「もっと運動してください」

だけで解決しようとすると、患者さんの負担が大きくなることがあります。

必要な場合には、インスリンを使って血糖値を整えることも大切です。

インスリンは「最後の手段」ではなく、その時点で必要な治療の選択肢の一つです。

インスリンを始めるのは努力不足?

違います。

2型糖尿病では、

食事に気をつけている。
運動もしている。
薬もきちんと飲んでいる。

それでも血糖値が上がることがあります。

糖尿病そのものが時間とともに変化することがあるからです。

そのため、

「インスリンが必要になった=自分の努力が足りなかった」

と考える必要はありません。

糖尿病は、努力の量だけで血糖値が決まる病気ではありません。

「もう少し食事を減らせばインスリンを避けられる」は注意

インスリンを始めたくないために、

「ご飯をもっと減らします」
「夕食を抜きます」
「毎日もっと歩きます」

と頑張る方がいます。

しかし、必要以上に食事を減らすと、体重だけでなく筋肉も減ってしまうことがあります。

特に高齢の方や、もともとやせている方では注意が必要です。

また、急に運動量を増やせば、けがや体調不良につながることもあります。

インスリンを避けること自体を糖尿病治療の目標にしないことが大切です。

一度インスリンを始めたら一生やめられない?

これは糖尿病の種類や状態によって違います。

1型糖尿病では、基本的にインスリン治療を継続する必要があります。

一方、2型糖尿病では、インスリンを一時的に使用する場合があります。

たとえば、血糖値が非常に高い時期や、手術・感染症などで一時的に血糖管理が難しくなったときにインスリンを使用し、その後の状態によって治療内容を変更できることがあります。

また、生活習慣や体重、ほかの治療などの変化によって、インスリンの量を減らしたり、別の治療に変更したりできる場合もあります。

つまり、

2型糖尿病では「インスリンを一度使ったら絶対に一生やめられない」というわけではありません。

ただし、インスリンをやめられるかどうかは人によって違います。

血糖値がよくなったら自分でインスリンをやめてもいい?

これは避けてください。

インスリンを始めて血糖値がよくなった場合、

インスリンが効いているから血糖値が改善している

可能性があります。

「血糖値が正常になったから、もう注射しなくても大丈夫」

と自己判断で中止すると、再び血糖値が大きく上昇することがあります。

特に1型糖尿病では、インスリンの中断が重い高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスにつながる可能性があります。

インスリンの量を変更したり中止したりするときは、必ず主治医と相談してください。

インスリンを使うと膵臓が怠ける?

「外からインスリンを入れると、膵臓が怠けてインスリンを作らなくなるのでは?」

と心配されることがあります。

インスリン治療を、

「使い始めると体が依存してしまう治療」

と考える必要はありません。

インスリンが必要になるのは、その時点で体が必要とするインスリンを十分にまかなえないなどの理由があるからです。

必要な治療を避けて高血糖を長く放置する方が問題になることがあります。

インスリン注射は痛い?

初めてインスリンを勧められた方が最も心配することの一つです。

現在のインスリン注射に使う針は非常に細いものが使われています。

実際に始めてみると、

「思っていたより痛くなかった」

と感じる方もいます。

もちろん、注射に対する感じ方には個人差があります。

不安がある場合には、実際の注射器具を見せてもらい、医師や看護師から使い方を教えてもらうとよいでしょう。

インスリンを始めたら生活が大変になる?

インスリン治療では、

注射
血糖値の確認
低血糖への注意

などが必要になる場合があります。

そのため、最初は、

「自分にできるだろうか」

と不安になるのも当然です。

しかし、インスリンの使い方は一人ひとり同じではありません。

治療内容によっては注射回数が少ない方法もあります。

大切なのは、

自分の生活にできるだけ合わせた治療方法を医療スタッフと一緒に考えること

です。

分からないまま我慢する必要はありません。

インスリンで一番注意したい低血糖

インスリン治療では、低血糖に注意が必要です。

低血糖では、

冷や汗
手のふるえ
強い空腹感
動悸
ふらつき
集中しにくい

などの症状がみられることがあります。

意識があり、安全に飲み込める場合には、ブドウ糖などの速やかに吸収される糖質で対応します。

一方、意識がもうろうとしている、けいれんしている、意識がない場合には、無理に口から食べ物や飲み物を与えてはいけません。

重い低血糖では救急対応が必要です。

インスリンを始める際には、「低血糖になったらどうするか」まで一緒に教えてもらうことが大切です。

インスリンを使い始めても運動できます

インスリンを使っているからといって、運動ができなくなるわけではありません。

ウォーキング、自転車、筋力トレーニングなどを楽しんでいる方もいます。

ただし、運動によって血糖値が下がり、低血糖が起こることがあります。

運動の時間、長さ、強さなどによって血糖値の動きも変わります。

特に長時間の運動を始める場合には、あらかじめ主治医や医療スタッフに相談しておくと安心です。

自己判断でインスリンを減らしたり、運動前に注射を中止したりしないでください。

インスリンを始めても食事を極端に制限する必要はありません

「インスリンを使うことになったから、もっと厳しく食事制限をしなければ」

と思う方もいます。

しかし、

インスリン治療=厳しい食事制限

ではありません。

もちろん、食事の量や内容を考えることは大切です。

一方で、食事を極端に減らせば低血糖や栄養不足につながる場合もあります。

インスリンと食事をどのように組み合わせるかは、治療内容によって異なります。

自分に合った方法を主治医や医療スタッフと相談しましょう。

インスリンを始めることで楽になることもあります

血糖値が非常に高い状態では、

強い口渇
尿の回数が多い
体重が減る
疲れやすい

などの症状が出ることがあります。

適切な治療によって高血糖が改善すると、このような症状が改善することがあります。

インスリン治療は、

「生活を制限するための治療」ではなく、高血糖から体を守るための治療

でもあります。

インスリンについて覚えておきたい3つのポイント

① インスリンを始めることは、糖尿病治療の失敗や努力不足を意味しません

② 2型糖尿病では、一度インスリンを始めても、その後の状態によって減量や治療変更ができる場合があります

③ インスリンは自己判断で中止・変更せず、低血糖への対応も含めて安全に使うことが大切です

まとめ

「インスリンを始めましょう」

と言われると、

「自分の糖尿病はそこまで悪くなってしまったのか」

と落ち込む方がいます。

しかし、インスリンは糖尿病治療の「最後の手段」でも「罰」でもありません。

その時点の体に必要だから使う治療です。

2型糖尿病では、一時的にインスリンを使用し、その後の状態によって治療を変更できることもあります。

一方、インスリンが必要な状態で、

「注射だけは絶対に嫌だから」

と食事を極端に減らしたり、無理な運動をしたりする必要はありません。

治療の目標は、インスリンを使わないことではありません。

血糖値を安全に管理し、合併症を防ぎながら、自分らしい生活をできるだけ長く続けることです。

インスリンが必要なら使う。

治療を変えられる状態になれば、そのときに主治医と見直す。

それでよいのです。

インスリンを始めることを「治療の失敗」ではなく、「今の自分に必要な治療を選ぶこと」と考えてみてください。