地震や台風、豪雨などの災害は、いつ起こるか分かりません。
糖尿病の患者さんにとって災害時に困ることの一つが、
「薬を家に置いたまま避難してしまった」
「インスリンがなくなりそうです」
「いつもの病院に行けません」
「避難所では食事の時間も内容も違います」
「血糖測定ができません」
といった治療の継続です。
災害時には、普段とまったく同じ糖尿病管理ができないこともあります。
だからこそ大切なのは、
「完璧に管理すること」ではなく、「治療をできるだけ安全につなぐこと」
です。
- 糖尿病の薬は少し余裕を持っておきましょう
- 薬の名前を言えますか?
- お薬手帳は大切な防災用品です
- インスリンを使っている人は特に準備が重要
- インスリンは冷蔵庫が使えなくなったら捨てる?
- 食事が十分にとれないときは低血糖に注意
- 非常食は糖尿病用でなければだめ?
- 低血糖に備えるものも用意しましょう
- 災害時は高血糖にもなりやすい
- 血糖値が高いから食事を抜く?
- 水分はできるだけたくさん飲めばいい?
- 避難所では「糖尿病があります」と伝えましょう
- 薬がなくなったらどうする?
- いつもの薬と違う製品を渡されたら?
- 災害時に備えて用意しておきたいもの
- 「糖尿病連携手帳」も役立ちます
- 災害が起きてから考えるのは難しい
- 今日覚えてほしい3つのこと
- まとめ
糖尿病の薬は少し余裕を持っておきましょう
災害が起こると、
医療機関へ行けない
薬局が営業していない
道路が通れない
薬の供給が遅れる
といったことがあります。
そのため、普段から処方薬がなくなる直前まで使い切る状態を避け、可能な範囲で余裕を持って管理しておくと安心です。
ただし、自己判断で大量に薬をため込む必要はありません。
どの程度の備えが適切かは、主治医や薬剤師に相談してください。
薬の名前を言えますか?
災害時に意外と困るのが、
「いつも飲んでいる薬の名前が分からない」
ことです。
「朝に白い薬を2錠」
「糖尿病の薬を3種類」
だけでは、正確な治療内容が分かりません。
薬の、
名前・用量・飲む回数
が分かるようにしておきましょう。
お薬手帳は大切な防災用品です
災害時には、いつもの医師ではない医療者から診療を受けることがあります。
そのとき、お薬手帳があれば、
どの糖尿病薬を使用しているか
インスリンを使っているか
ほかにどんな薬を飲んでいるか
などを確認しやすくなります。
紙のお薬手帳だけでなく、現在の処方内容をスマートフォンで撮影しておく方法もあります。
スマートフォンが使えない場合も考え、紙の情報も用意しておくとより安心です。
インスリンを使っている人は特に準備が重要
インスリン治療中の方は、
インスリン
注射針
血糖測定器や必要な消耗品
ブドウ糖
なども必要になります。
特に1型糖尿病では、
食事がとれないからといって、すべてのインスリンを自己判断で中止することは危険です。
インスリンが著しく不足すると、糖尿病性ケトアシドーシスにつながることがあります。
災害時にインスリンがなくなりそうな場合には、できるだけ早く避難所の医療スタッフ、救護所、医療機関などへ相談してください。
インスリンは冷蔵庫が使えなくなったら捨てる?
すぐに捨てる必要があるとは限りません。
インスリンは高温や凍結を避ける必要がありますが、使用中製剤の保存条件や使用可能期間は製品によって異なります。
停電したからといって、
「冷蔵できない=すぐ使用できない」
と自己判断しないでください。
反対に、保冷剤へ直接密着させるなどして凍結させることも避ける必要があります。
災害時には可能な範囲で直射日光や高温を避け、製品ごとの保存方法について医療スタッフや薬剤師に確認しましょう。
食事が十分にとれないときは低血糖に注意
避難生活では、
食事が届かない
食事量が少ない
食事時間が遅れる
ことがあります。
このような状況で、いつもと同じ糖尿病治療を続けると、薬によっては低血糖を起こす可能性があります。
特に、
インスリン、SU薬、グリニド薬
などを使用している方は注意が必要です。
ただし、
「食べられないから糖尿病の薬を全部やめる」
という対応も適切とは限りません。
薬によって対応が異なるため、普段からシックデイ時の対応を確認しておくことが大切です。
非常食は糖尿病用でなければだめ?
必ずしも「糖尿病専用」の非常食を用意する必要はありません。
災害時には、まず必要なエネルギーや水分を確保することが重要です。
非常食として、
ご飯
パン
麺類
缶詰
保存食品
など、炭水化物の多い食品が中心になることもあります。
普段の食事療法どおりにできなくても、
「血糖値が上がるから食べない」
と極端に考えないでください。
災害時には食べられるものが限られます。
完璧な食事療法より、まず安全を優先します。
低血糖に備えるものも用意しましょう
インスリンや低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方は、ブドウ糖などを非常用持ち出し袋にも入れておくと安心です。
低血糖になったとき、意識があり安全に飲み込める場合には、ブドウ糖など吸収の速い糖質で対応します。
一方、
意識がもうろうとしている
けいれんしている
意識がない
場合には、無理に食べ物や飲み物を口に入れてはいけません。
誤嚥する危険がありますので、救急対応が必要です。
災害時は高血糖にもなりやすい
災害時には低血糖だけでなく、高血糖にも注意が必要です。
強いストレス
睡眠不足
感染症
食事内容の変化
運動不足
薬の中断
などによって血糖値が上昇することがあります。
そのため、
「避難所の食事を食べたから血糖値が上がった」
とは限りません。
災害そのものによる身体的・精神的なストレスも血糖値に影響します。
血糖値が高いから食事を抜く?
自己判断で極端に食事を減らすことはおすすめできません。
特に薬やインスリンを使用している場合には、食事を抜くことで低血糖につながる可能性があります。
また、著しい高血糖では脱水やケトアシドーシスなどへの注意も必要です。
血糖値が高いから「食べない・薬を増やす・激しく運動する」という自己流の調整は避けましょう。
水分はできるだけたくさん飲めばいい?
これも一律ではありません。
災害時は脱水に注意が必要です。
しかし、
心不全
高度な腎機能低下
透析治療中
などで水分量について指示を受けている方もいます。
そのような方が、
「糖尿病だから水をたくさん飲まなければ」
と急に水分量を増やすことが適切とは限りません。
普段から、自分の場合はどのように水分を考えればよいか確認しておくことが大切です。
避難所では「糖尿病があります」と伝えましょう
周囲に病気を知られたくないと感じる方もいるかもしれません。
しかし、
インスリンを使用している
低血糖を起こす可能性がある
食事や薬について配慮が必要
といった場合には、医療スタッフなどへ伝えておくことが安全につながります。
特に低血糖では、酔っているように見えたり、反応がおかしくなったりすることがあります。
家族にも、
「低血糖になったとき、どのような症状が出る可能性があるか」
を伝えておくと安心です。
薬がなくなったらどうする?
薬がなくなっても、
「数日くらい全部やめても大丈夫だろう」
と自己判断しないようにしてください。
避難所の救護所
災害医療チーム
近くの医療機関
薬剤師
などへ相談します。
その際、お薬手帳や処方内容の写真などが役立ちます。
特にインスリンが必要な方は、なくなる前に早めに相談することが重要です。
いつもの薬と違う製品を渡されたら?
災害時には、普段使用しているメーカーや商品名と異なる薬が用意されることがあります。
見た目が違う場合には、
「これはいつもの薬と同じ成分ですか?」
と確認してください。
名前や外観が違うだけで同じ有効成分の場合もあります。
一方、自己判断で古い薬と新しい薬の両方を使用すると、重複する可能性があります。
分からない場合には医療スタッフや薬剤師に確認しましょう。
災害時に備えて用意しておきたいもの
糖尿病の方は、一般的な防災用品に加えて、
- 糖尿病の薬
- お薬手帳・処方内容のコピー
- インスリンを使用している方はインスリンと注射に必要なもの
- 血糖測定をしている方は測定に必要なもの
- 低血糖の可能性がある方はブドウ糖
- 緊急連絡先やかかりつけ医の情報
などを準備しておくと安心です。
一度用意して終わりではなく、薬や消耗品の使用期限、現在の処方内容を定期的に確認することも大切です。
「糖尿病連携手帳」も役立ちます
糖尿病連携手帳などを利用している方は、災害時にも役立つことがあります。
HbA1cや治療内容、合併症などの情報を医療者へ伝える助けになります。
お薬手帳とともに、すぐ持ち出せる場所を決めておくとよいでしょう。
災害が起きてから考えるのは難しい
災害時には、
どこへ避難するか
家族は安全か
食料はあるか
など、考えることがたくさんあります。
その状況で、
「インスリンはどうすればよかったかな」
と一から考えるのは大変です。
だからこそ平常時に、
薬がなくなりそうなときはどうするか
食事がとれないときはどうするか
低血糖になったらどうするか
を確認しておくことが重要です。
今日覚えてほしい3つのこと
① お薬手帳や現在の処方内容も「防災用品」の一つです
② 特にインスリン治療中の方は、薬・注射用品・低血糖への備えを普段から準備しておきましょう
③ 災害時は完璧な血糖管理より、治療を途切れさせず安全につなぐことを優先しましょう
まとめ
災害時には、普段と同じ糖尿病治療ができないことがあります。
食事時間が変わる。
薬が足りなくなる。
血糖測定ができない。
いつもの医療機関を受診できない。
そうした状況も起こり得ます。
だからこそ、
「いつもどおりにできなかったらどうしよう」
と心配するだけではなく、平常時に少し準備しておくことが大切です。
薬の名前と量が分かるようにする。
お薬手帳を準備する。
低血糖に備える。
インスリンが必要な方は注射用品も準備する。
そして、災害が起きたときには、
一人で何とかしようとせず、避難所の医療スタッフや医療機関、薬剤師へ早めに相談してください。
糖尿病があっても、災害時にすべてを完璧に管理する必要はありません。
まず命を守る。そして、できる範囲で糖尿病治療をつないでいく。
この順番を覚えておいてください。
参考文献・情報源
- 日本糖尿病学会「災害関連情報」
- 日本糖尿病協会「災害時の糖尿病医療・糖尿病患者さんへの情報」
- 日本糖尿病学会『糖尿病治療ガイド』
- 各インスリン製剤の電子添文(PMDA)
