インスリン治療を勧められたとき、
「低血糖になるのが怖い」
「寝ている間に低血糖になったらどうしよう」
「運動したら危ないのでは?」
「低血糖が怖いから、少し多めに食べた方がいい?」
と心配になる方は少なくありません。
確かに、インスリン治療では低血糖に注意が必要です。
しかし、
「インスリンを使う=必ず危険な低血糖になる」
ということではありません。
低血糖が起こりやすい場面を知り、起こったときの対処法を準備しておくことで、安全に治療を続けることができます。
大切なのは、低血糖を怖がってインスリンを避けることではなく、
「低血糖について知って、備えておくこと」
です。
- 低血糖とは?
- なぜインスリンで低血糖になるの?
- 食事を抜くと低血糖になりやすい?
- 運動すると低血糖になる?
- 運動が終わったあとにも低血糖になることがあります
- 低血糖になったらどうする?
- チョコレートでもいい?
- 意識がない人に食べ物を与えてはいけません
- 低血糖が怖いから血糖値を高めにしておけばいい?
- 低血糖を起こしたらインスリンをやめた方がいい?
- 夜中の低血糖が心配です
- 低血糖の症状に気づきにくい人もいます
- 外出するときはブドウ糖を持ち歩きましょう
- 車を運転するときは特に注意
- 低血糖を記録すると原因が見つかることがあります
- 低血糖をゼロにするために何もしない、ではありません
- インスリンと低血糖で覚えておきたい3つのポイント
- まとめ
低血糖とは?
一般に、血糖値70mg/dL未満は低血糖として対応が必要な目安です。
血糖値が低下すると、
冷や汗
手のふるえ
動悸
強い空腹感
ふらつき
力が入らない
集中しにくい
などの症状が出ることがあります。
さらに血糖値が低下すると、
うまく話せない
いつもと違う行動をする
意識がもうろうとする
けいれんする
意識を失う
などの重い症状につながることがあります。
症状の出方には個人差があります。
なぜインスリンで低血糖になるの?
インスリンには血糖値を下げる働きがあります。
そのため、インスリンの作用に対して、
食事が少なかった
食事が遅れた
いつもより運動した
長時間体を動かした
飲酒などの影響があった
といったことが重なると、血糖値が下がりすぎることがあります。
つまり、
インスリンだけではなく、「インスリン・食事・運動などのバランス」が低血糖に関係します。
食事を抜くと低血糖になりやすい?
使用しているインスリンの種類やタイミングによっては、食事が遅れたり、いつもより食事量が少なかったりすると低血糖につながることがあります。
「今日は血糖値が高かったから夕食を抜こう」
と自己判断するのはおすすめできません。
また、
「食べなければHbA1cが下がる」
と極端に食事を減らすことも危険です。
インスリン治療中の食事について分からないことがあれば、主治医や医療スタッフに相談してください。
運動すると低血糖になる?
運動すると筋肉がブドウ糖を利用するため、血糖値が低下することがあります。
そのため、インスリンを使用している方では運動中の低血糖に注意が必要です。
特に、
いつもより長く歩いた
長時間自転車に乗った
強い運動をした
普段より活動量が多かった
といった日は注意しましょう。
ただし、
「インスリンを使っているから運動してはいけない」わけではありません。
安全に行えば、運動は糖尿病治療の大切な一部です。
運動が終わったあとにも低血糖になることがあります
注意したいのは、
運動中に低血糖にならなければ大丈夫、とは限らない
ことです。
長時間の運動や強めの運動をした場合には、その後しばらくしてから血糖値が低下することがあります。
夕方にいつもより長く運動したあと、夜間に低血糖が起こることもあります。
運動後に低血糖を繰り返す場合には、主治医に相談してください。
自己判断でインスリンの量を変更するのは避けましょう。
低血糖になったらどうする?
低血糖が疑われ、意識がはっきりしていて安全に飲み込める場合には、
ブドウ糖などの速やかに吸収される糖質をとります。
一般的にはブドウ糖10~20g程度が目安です。
可能であれば15分程度たってから血糖値を確認します。
まだ低い場合や症状が改善していない場合には、再度対応が必要になることがあります。
低血糖を起こす可能性のある方は、具体的な対応方法をあらかじめ医療スタッフと確認しておきましょう。
チョコレートでもいい?
低血糖になると、
「とにかく甘いものを食べればいい」
と思うかもしれません。
しかし、緊急の低血糖への対応には、速やかに吸収されるブドウ糖などが適しています。
チョコレートなど脂肪を多く含む食品では、糖の吸収が遅くなることがあります。
そのため、
「低血糖のために何を持ち歩くか」
をあらかじめ決めておくと安心です。
ブドウ糖を携帯しておくと便利です。
意識がない人に食べ物を与えてはいけません
低血糖によって、
意識がもうろうとしている
けいれんしている
意識がない
という場合には、
口から食べ物や飲み物を無理に与えてはいけません。
誤って気管に入る危険があるからです。
重い低血糖では救急対応が必要です。
グルカゴンを処方され、家族などが使用方法の説明を受けている場合には、その指示に従います。
家族や身近な人にも、
「低血糖で意識が悪いときは、無理に食べさせない」
ことを知っておいてもらうと安心です。
低血糖が怖いから血糖値を高めにしておけばいい?
低血糖を経験すると、
「もう低血糖になりたくない」
という気持ちから、
食事を多めにする
間食を増やす
インスリンを少なくする
といった対応をしたくなることがあります。
しかし、自己判断で血糖値を高めに維持しようとすると、今度は高血糖が続く可能性があります。
低血糖を防ぐために、わざと高血糖にすることが解決策とは限りません。
低血糖を繰り返す場合には、治療内容を見直せることがあります。
主治医に、
「低血糖が怖いです」
とそのまま伝えてください。
低血糖を起こしたらインスリンをやめた方がいい?
低血糖が起こったからといって、自己判断でインスリンを中止するのは避けてください。
特に1型糖尿病では、インスリンを中断すると重い高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスにつながる可能性があります。
必要なのは、
「なぜ低血糖が起こったのか」を確認すること
です。
食事量。
運動。
インスリンの種類や量。
注射する時間。
体調。
こうしたものを確認しながら、必要であれば主治医が治療を調整します。
夜中の低血糖が心配です
夜間の低血糖は、本人が気づきにくいことがあります。
朝起きたときに、
強いだるさがある
寝汗をかいていた
頭痛がする
などがみられることもありますが、これらだけで夜間低血糖と判断することはできません。
夜間低血糖が疑われる場合や、実際に繰り返している場合には、主治医に相談しましょう。
必要に応じて血糖測定の方法や治療内容を見直します。
低血糖の症状に気づきにくい人もいます
低血糖を繰り返している方や高齢の方などでは、低血糖になっても典型的な症状に気づきにくい場合があります。
「自分は低血糖の症状が出ないから大丈夫」
とは限りません。
気づかないうちに血糖値がかなり低くなる場合もあります。
低血糖を繰り返している方は、必ず主治医に伝えましょう。
外出するときはブドウ糖を持ち歩きましょう
インスリンを使用している方では、外出時にも低血糖が起こる可能性があります。
特に、
長く歩く日
旅行
スポーツ
自転車
いつもより活動量が多い日
には注意が必要です。
低血糖になってからコンビニや自動販売機を探すのではなく、
あらかじめブドウ糖などを携帯しておく
と安心です。
「使わなかったから無駄」ではありません。
使わずに帰ってこられれば、それでよいのです。
車を運転するときは特に注意
運転中の低血糖は、自分だけでなく周囲の人にも危険を及ぼす可能性があります。
インスリンなど低血糖を起こす可能性のある治療をしている方は、運転と低血糖について主治医から受けている指示を守ってください。
運転中に低血糖を疑う症状があれば、そのまま運転を続けないことが大切です。
安全な場所に停車し、適切に対応します。
低血糖から回復した直後も、すぐに運転を再開してよいとは限りません。
低血糖を記録すると原因が見つかることがあります
低血糖を繰り返す場合には、
何時ごろだったか
食事の前後だったか
どんな運動をしたか
インスリンをいつ使用したか
などを記録しておくと役立つことがあります。
完璧な日記を作る必要はありません。
診察のときに、
「夕方に歩いた日の夜に低血糖が多い」
と分かるだけでも、治療を考える手がかりになります。
低血糖をゼロにするために何もしない、ではありません
低血糖が怖くなると、
「運動しない方がいい」
「外出しない方がいい」
「旅行はやめておこう」
と生活を狭めてしまうことがあります。
しかし、糖尿病治療の目的は、
低血糖を恐れて生活を制限することではありません。
低血糖のリスクをできるだけ減らしながら、安全に生活することが大切です。
必要な準備をして、分からないことは医療スタッフと相談しながら、自分らしい生活を続けていきましょう。
インスリンと低血糖で覚えておきたい3つのポイント
① インスリンでは低血糖に注意が必要ですが、正しく備えることで安全に治療を続けられます
② 低血糖に備えてブドウ糖などを携帯し、自分の低血糖症状を知っておきましょう
③ 低血糖を繰り返す場合は、インスリンを自己判断で変更せず、主治医に相談しましょう
まとめ
インスリン治療を始めるとき、
「低血糖が怖い」
と思うのは自然なことです。
確かに低血糖は、インスリン治療で注意しなければならないことの一つです。
しかし、
「怖いからインスリンを使わない」
「怖いからいつも多めに食べる」
「怖いから運動しない」
という必要はありません。
大切なのは、
低血糖の症状を知る。
起こりやすい場面を知る。
ブドウ糖を準備する。
起こったときの対処法を知る。
ことです。
そして低血糖を繰り返すなら、
「自分が失敗した」と考えるのではなく、治療を見直すサイン
として主治医に相談してください。
インスリンは、低血糖を怖がりながら使うための薬ではありません。
低血糖について知り、備えながら、安全に使っていく治療です。
インスリンに生活を合わせすぎるのではなく、できるだけ自分の生活に合った治療を医療スタッフと一緒に考えていきましょう。
