糖尿病の患者さんから、
「糖尿病の薬を長く飲んでいると腎臓が悪くなりませんか?」
「腎臓が悪いと言われたので、薬を減らした方がいいですか?」
「薬をたくさん飲んでいるから腎臓に負担がかかっているのでは?」
と聞かれることがあります。
腎臓は多くの薬の排泄に関係しているため、腎機能が低下すると薬の使い方に注意が必要になることがあります。
しかし、
「糖尿病の薬=腎臓に悪い」
という考え方は正しくありません。
むしろ現在では、糖尿病の治療薬の中に、患者さんの状態によっては腎臓を守ることも期待して使用される薬があります。特にSGLT2阻害薬は、糖尿病だけでなく慢性腎臓病(CKD)の治療でも重要な位置を占めるようになっています。
大切なのは、
「薬を飲まないこと」ではなく、現在の腎機能に合った薬を適切に使用すること
です。
糖尿病と腎臓には深い関係があります
糖尿病では、長期間にわたって高血糖などの影響が続くと、腎臓に障害が起こることがあります。
現在では、糖尿病のある方にみられる慢性腎臓病を広く**糖尿病関連腎臓病(DKD)**として考えます。
腎臓の状態を調べるときには、血液検査だけではなく、
eGFR(腎臓が血液をろ過する能力の目安)
や
尿アルブミン・尿蛋白
などを確認します。
腎機能が保たれていても尿アルブミンが増えている場合があり、反対に尿蛋白がそれほど多くなくても腎機能が低下している場合があります。
そのため、
「クレアチニンだけ見ていれば大丈夫」
というわけではありません。
腎機能が低下すると、なぜ薬の調整が必要なの?
薬の中には、体内で働いたあとに腎臓から排泄されるものがあります。
腎機能が低下すると、薬によっては体内に残りやすくなることがあります。
その結果、
薬の作用が強くなる
副作用が起こりやすくなる
低血糖の危険が高くなる
といった問題が生じることがあります。
そのため、腎機能に応じて、
薬の量を変更する
使用方法を変更する
別の薬へ変更する
使用を避ける
などの対応が必要になることがあります。
ただし、これは
「腎臓が悪くなったから糖尿病薬を全部やめる」
という意味ではありません。
「薬が腎臓から排泄される」=「腎臓を傷める」ではありません
ここはとても大切なところです。
患者さんから、
「この薬は腎臓から出るので、腎臓に負担がかかるのでは?」
と聞かれることがあります。
しかし、
腎臓から排泄されることと、腎臓そのものを傷めることは別の話です。
腎臓から排泄される薬では、腎機能が低下したときに薬の量などを調整する必要がある場合があります。
それを、
「薬が腎臓から出るから腎臓に悪い」
と考える必要はありません。
腎臓を守る目的でも使われる糖尿病薬があります
糖尿病治療は大きく変わってきました。
以前は、
「血糖値を下げる薬」
という側面が中心でした。
現在では、血糖値だけでなく、
心臓
腎臓
低血糖の危険性
体重
年齢
なども考えて薬を選択します。
その代表の一つがSGLT2阻害薬です。
SGLT2阻害薬はもともと血糖降下薬として使用されてきましたが、現在ではCKDの進行を抑える目的でも重要な薬になっています。糖尿病のないCKD患者さんにも使用される場合があります。
つまり、
「糖尿病の薬は腎臓に悪い」というより、「腎臓を守るために選ばれる糖尿病薬もある」
時代になっています。
薬を始めたあとにeGFRが少し下がったら、腎臓が悪くなった?
これも知っておきたいポイントです。
SGLT2阻害薬など一部の薬では、治療を開始した直後にeGFRが一時的に低下することがあります。
これだけを見て、
「薬で腎臓が悪くなった」
と判断できるわけではありません。
日本腎臓学会のCKD診療ガイド2024でも、SGLT2阻害薬などの開始初期にはeGFRが低下することがあることが示されています。
もちろん、大きな腎機能低下や脱水などが疑われる場合には評価が必要です。
ですから、
検査値が少し変化したからといって、自己判断で薬を中止しない
ことが重要です。
腎機能が悪くなったら薬を減らせばいい?
必ずしもそうではありません。
腎機能が低下した場合には、
減量する薬
中止を検討する薬
そのまま使用できる薬
腎臓を守る目的で使用する薬
などがあります。
しかも、その判断はeGFRだけでは決まりません。
年齢
血糖値
尿蛋白・尿アルブミン
心臓病の有無
脱水の危険
低血糖の危険
ほかに使用している薬
などを含めて考えます。
したがって、
「腎機能が低下した=薬を減らす」ではなく、「腎機能が低下した=薬の内容をもう一度確認する」
と考える方がよいでしょう。
腎機能が低下すると低血糖にも注意が必要です
腎臓と糖尿病治療を考えるとき、忘れてはいけないのが低血糖です。
腎機能が低下すると、薬の種類によっては作用が長くなったり、低血糖を起こしやすくなったりすることがあります。
特に、
高齢の方
食事量が少ない方
やせている方
インスリンを使用している方
低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方
では注意が必要です。
腎機能が低下してきたときには、
HbA1cをできるだけ低くすることだけを目標にしない
ことも大切です。
安全に治療を続けられることが重要です。
「腎臓が悪いから水をたくさん飲めばいい」とは限りません
腎臓が心配になると、
「水をたくさん飲んで腎臓を洗った方がいい」
と考える方もいます。
しかし、必要な水分量は患者さんによって違います。
特に、
心不全がある
むくみがある
腎機能が大きく低下している
透析治療を受けている
などの場合には、水分量について個別の指示が必要です。
「腎臓のために、とにかく水をたくさん飲む」という方法はおすすめできません。
主治医から水分について指示されている場合には、その指示に従ってください。
発熱・嘔吐・下痢などのときは薬に注意
普段は問題なく使用している薬でも、
発熱
嘔吐
下痢
食事がとれない
水分がとれない
といったシックデイには、対応が変わる場合があります。
脱水が加わることで、腎機能が一時的に悪化することもあります。
このようなときには、
「いつもの薬だから全部そのまま飲む」
とも、
「体調が悪いから全部やめる」
とも一律には言えません。
薬によって対応が違います。
あらかじめ、
「食事や水分がとれないとき、この薬はどうすればよいですか?」
と主治医や薬剤師に確認しておくと安心です。
市販薬やサプリメントにも注意しましょう
腎機能が低下している方では、糖尿病薬だけを確認すればよいわけではありません。
市販の痛み止めなどの中には、腎機能に注意して使用する必要があるものがあります。
また、
「健康食品だから安全」
「サプリメントだから腎臓には関係ない」
とも限りません。
病院で処方された薬だけでなく、市販薬やサプリメントを使用している場合にも、医師や薬剤師へ伝えてください。
腎臓が悪くなったのは糖尿病のせい?
糖尿病のある方の腎機能が低下したからといって、すべてが糖尿病によるものとは限りません。
腎臓病にはさまざまな原因があります。
また、
高血圧
加齢
心臓病
ほかの腎疾患
などが関係している場合もあります。
だからこそ、
「糖尿病だから腎臓が悪くなったのだろう」
と決めつけず、腎機能の変化や尿蛋白などを継続して確認することが大切です。
CKDでは、腎機能だけでなく蛋白尿・アルブミン尿や原因疾患を含めて評価することが重要とされています。
腎臓を守るために大切なのは「薬を減らすこと」だけではありません
腎臓を守るというと、
「薬をなるべく飲まない」
ことを想像するかもしれません。
しかし実際には、
血糖管理
血圧管理
禁煙
適切な食事
必要な薬物治療
などを組み合わせて考えることが大切です。
糖尿病とCKDの治療では、腎臓だけでなく心血管病の予防や将来の透析リスクなども含めた長期的な視点が重要です。
腎機能について覚えておきたい3つのポイント
① 「糖尿病の薬=腎臓に悪い」ではありません
② 腎機能が低下すると薬の量や種類を見直す必要がある場合がありますが、腎臓を守る目的で使われる薬もあります
③ 腎機能が悪くなったからといって、自己判断で糖尿病薬を減らしたり中止したりしないことが大切です
まとめ
「薬をたくさん飲むと腎臓が悪くなる」
というイメージを持っている方は少なくありません。
しかし、糖尿病治療では、
薬を使わないことが腎臓を守ることではありません。
腎機能に合わせて薬を選び、必要に応じて量を調整し、適切な治療を続けることが大切です。
そして現在では、糖尿病薬の一部は血糖値を下げるだけでなく、腎臓を守ることも考えて選択されるようになっています。
検査で腎機能の低下を指摘されたら、
「薬をやめた方がいいですか?」
だけでなく、
「今の腎機能に、この薬は合っていますか?」
と主治医や薬剤師に聞いてみてください。
腎臓を守るために必要なのは、
薬を怖がることでも、薬を減らすために頑張りすぎることでもありません。
自分の腎機能を知り、その状態に合った治療を安全に続けていくことが大切です。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編・著.糖尿病診療ガイドライン2024.南江堂,2024.
- 日本腎臓学会 編.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,2023.
- 日本腎臓学会.CKD診療ガイド2024.東京医学社,2024.
- 日本腎臓学会.日本腎臓学会のSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation.
