糖尿病の患者さんから、
「糖尿病だと風邪をひきやすいのですか?」
「インフルエンザになると重症化しやすいですか?」
「ほとんど食べていないのに、風邪をひいたら血糖値が上がりました」
「体調が悪い日は糖尿病の薬をどうすればいいですか?」
と聞かれることがあります。
糖尿病があるからといって、必ず感染症にかかるわけではありません。
しかし、血糖管理の状態や年齢、合併症などによっては、感染症にかかりやすくなったり、重症化しやすくなったりすることがあります。
そしてもう一つ大切なのが、
感染症そのものによって血糖値が上昇することがある
ということです。
糖尿病だと風邪をひきやすいの?
「糖尿病の人は、普通の風邪に必ずかかりやすい」
と単純に考える必要はありません。
ただし、高血糖が続いている場合には、体の感染防御機能が十分に働きにくくなることがあります。
また糖尿病では、感染症によって重症化するリスクが高くなる場合があります。
特に、
高齢の方
血糖管理が不十分な方
腎臓病などの合併症がある方
免疫機能に影響する病気や治療がある方
などでは、より注意が必要です。
糖尿病で注意したい感染症は?
糖尿病ではさまざまな感染症に注意します。
たとえば、
インフルエンザなどの呼吸器感染症
肺炎
尿路感染症
皮膚・軟部組織の感染症
足の傷からの感染症
などです。
「糖尿病だから特別な感染症だけにかかる」ということではありません。
よくある感染症が、糖尿病の状態を悪化させることがある
と考える方が分かりやすいでしょう。
なぜ感染すると血糖値が上がるの?
風邪や肺炎などになると、
「食欲がなくて、ほとんど食べていないのに血糖値が250mg/dLありました」
ということがあります。
一見すると不思議です。
しかし、血糖値は食事だけで決まっているわけではありません。
感染症になると、体は病気に対抗するためにさまざまなホルモンを分泌します。
その影響で、
肝臓から糖が供給される
インスリンが効きにくくなる
などが起こり、血糖値が上昇することがあります。
つまり、
「食べていないのに血糖値が高い」ことは、感染症のときには起こり得ます。
血糖値が上がると感染症が悪くなる?
高血糖が続くと、感染に対する体の防御機能に影響することがあります。
一方で、感染症になると血糖値が上がります。
つまり、
感染症 → 血糖上昇 → 感染症への対応がさらに難しくなる
という悪循環になることがあります。
そのため、糖尿病の方が感染症になった場合には、
「風邪だから糖尿病は関係ない」
と考えず、血糖値にも注意することが大切です。
熱が出たら血糖値を測った方がいい?
普段自宅で血糖測定をしている方は、発熱などの体調不良時には、主治医から指示された方法で普段より注意して血糖値を確認することがあります。
ただし、すべての2型糖尿病患者さんが、風邪をひくたびに自己血糖測定を始めなければならないという意味ではありません。
普段どのように血糖を確認しているか、使用している薬は何かによって対応は異なります。
あらかじめ主治医からシックデイ時の対応を聞いておくと安心です。
食べられないのに薬は飲むの?
ここは重要です。
体調が悪くて食事ができないと、
「食べていないのだから糖尿病の薬も全部いらないだろう」
と思うかもしれません。
しかし、薬によって対応は異なります。
食事量が少ないと低血糖の危険が高くなる薬があります。
一方、脱水や体調不良のときに一時的な休薬を検討する薬もあります。
そして、すべての糖尿病薬やインスリンを一律に中止するわけではありません。
特に1型糖尿病では、食事ができなくても基礎インスリンまで自己判断で中止すると、糖尿病性ケトアシドーシスにつながる危険があります。
これがシックデイで薬の扱いを個別に考える理由です。
「食べられない」と「水分もとれない」は違います
食欲がなくても水分はとれる、という場合があります。
一方、
何度も吐いてしまう
下痢が続いている
水を飲んでも吐いてしまう
という状態では、脱水の危険が高くなります。
糖尿病では高血糖によって尿量が増え、さらに脱水が進むこともあります。
水分もとれない状態は、単なる食欲不振より注意が必要です。
ただし、心不全、高度な腎機能低下、透析治療中などで水分制限を指示されている方は、自己判断で大量に水分をとらず、個別の指示に従ってください。
感染症のときに起こる低血糖にも注意
感染症というと高血糖をイメージしますが、低血糖にも注意が必要です。
たとえば、
食事がほとんどとれない
嘔吐している
いつもと同じ量のインスリンや低血糖を起こしやすい薬を使用した
などの場合には、低血糖が起こることがあります。
したがって、
「病気のときは必ず血糖値が上がる」
というわけでもありません。
高血糖と低血糖の両方に注意します。
高血糖になったら運動して下げればいい?
体調が悪いときに、
「血糖値が高いから歩いて下げよう」
と考えるのはおすすめできません。
発熱、脱水、強い倦怠感などがあるときには、まず体調の回復を優先します。
特に著しい高血糖やケトン体が増えている可能性がある状態では、運動が適切でないことがあります。
病気のときは、血糖値を下げるために無理に運動しない
と覚えておきましょう。
糖尿病性ケトアシドーシスとは?
インスリンが著しく不足すると、体はブドウ糖を十分利用できず、脂肪を分解してエネルギーを作ろうとします。
その過程でケトン体が増え、**糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)**という危険な状態になることがあります。
特に1型糖尿病では重要です。
また、SGLT2阻害薬を使用している方では、血糖値がそれほど著しく高くなくてもケトアシドーシスが起こることがあるため注意が必要です。
どんな症状があったら早めに受診する?
感染症のとき、
高熱が続く
水分が十分とれない
嘔吐や下痢を繰り返す
血糖値が高い状態が続く
強い倦怠感がある
腹痛がある
いつもと違う呼吸の苦しさがある
などの場合には、早めに医療機関へ相談してください。
特に、
意識がもうろうとしている
呼びかけへの反応がおかしい
水分をほとんどとれない
強い呼吸困難がある
といった場合には、緊急の対応が必要です。
足の傷にも注意しましょう
糖尿病では、足の小さな傷から感染が広がることがあります。
特に、
神経障害で痛みを感じにくい
血流が悪い
以前に足潰瘍があった
という方では注意が必要です。
足に、
赤み
腫れ
熱感
膿
傷が治らない
などがある場合には、
「痛くないから大丈夫」
と考えず、早めに医療機関へ相談してください。
尿路感染症にも注意
糖尿病では尿路感染症にも注意が必要です。
排尿時の痛み
頻尿
発熱
腰や背中の痛み
などがある場合には、膀胱炎や腎盂腎炎などの可能性があります。
特に発熱や強い全身症状を伴う場合には、早めの受診が必要です。
予防接種は必要?
糖尿病の方では、年齢や健康状態などに応じて、インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナなどの予防接種を検討することが重要です。
どのワクチンが推奨されるか、接種時期や公費負担の対象などは年齢や制度によって異なります。
自分が対象になるか、主治医や自治体の最新情報を確認してください。
感染症を完全に防ぐことはできません
糖尿病があると、
「感染症にならないようにしなければ」
と神経質になってしまう方もいます。
しかし、どれだけ気をつけても風邪や感染症にかかることはあります。
大切なのは、
感染症に絶対かからないことではなく、感染したときに適切に対応できること
です。
そのために、
自分の薬を知る
シックデイの対応を確認する
必要に応じて血糖値を確認する
受診すべき症状を知っておく
ことが役立ちます。
今日覚えてほしい3つのこと
① 糖尿病では、血糖管理の状態などによって感染症に注意が必要になります
② 感染症になると、食べていなくても血糖値が上がることがあります
③ 食事がとれないときに糖尿病薬やインスリンをどうするかは薬によって違うため、普段からシックデイの対応を確認しておきましょう
まとめ
糖尿病があるからといって、必ず風邪やインフルエンザにかかるわけではありません。
しかし、糖尿病の状態によっては感染症にかかりやすくなったり、重症化しやすくなったりすることがあります。
そして感染症になると、
食事をあまりしていなくても血糖値が上がる
ことがあります。
一方で、食事量が減れば低血糖が起こる場合もあります。
つまり、体調不良時には、
高血糖と低血糖の両方に注意する
ことが大切です。
そして、
「食べられないから薬を全部やめる」
「血糖値が高いから薬を追加する」
「運動して血糖値を下げる」
と自己判断しないようにしてください。
糖尿病治療では、普段の血糖管理だけでなく、
「体調を崩したときにどうするか」を知っておくことも治療の一部です。
感染症になったこと自体を必要以上に怖がる必要はありません。
普段から自分のシックデイルールを確認し、困ったときには早めに主治医へ相談できるようにしておきましょう。
参考文献・情報源
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』
- 日本糖尿病学会『糖尿病治療ガイド』
- 日本糖尿病学会「糖尿病患者の皆様へ:今一度シックデイ対策を」
- 国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター「糖尿病と感染症」などの患者向け情報
