SGLT2阻害薬はなぜ腎臓を守る?飲み始めにeGFRが下がる理由も解説

SGLT2阻害薬は、もともと血糖値を下げる目的で開発された糖尿病治療薬です。

しかし現在では、血糖値を下げるだけでなく、腎臓や心臓を守る働きがあることも分かっています。

一方、飲み始めた後にeGFRが少し下がることがあり、

「腎臓を守る薬なのに、腎機能が悪くなったのでは?」

と心配になる方もいるかもしれません。

結論からいうと、SGLT2阻害薬を開始した直後の軽度なeGFR低下は、腎臓への負担が軽くなったことに伴う一時的な変化の場合があります。

ただし、低下が大きい場合や、脱水・体調不良を伴う場合には確認が必要です。

SGLT2阻害薬とは?

SGLT2は、腎臓の近位尿細管にある「糖とナトリウムを血液中へ戻す仕組み」です。

SGLT2阻害薬はこの働きを抑えることで、余分な糖を尿中へ排出し、血糖値を下げます。

日本で使用されている代表的な薬には、次のようなものがあります。

  • ダパグリフロジン
  • エンパグリフロジン
  • カナグリフロジン
  • イプラグリフロジン
  • トホグリフロジン
  • ルセオグリフロジン

薬によって、糖尿病・慢性腎臓病・心不全などの適応が異なります。そのため、どの薬が使用できるかは一人ひとりの病状によって判断されます。

SGLT2阻害薬はなぜ腎臓を守る?

腎臓には、血液をろ過して尿を作る「糸球体」という小さなフィルターがあります。

糖尿病では、この糸球体に必要以上の圧力がかかることがあります。これを「糸球体内圧の上昇」といいます。

高い圧力が長く続くと、糸球体が傷つき、尿アルブミンの増加や腎機能低下につながることがあります。

SGLT2阻害薬には、この糸球体にかかる圧力を調整する働きがあります。

腎臓内の糖とナトリウムの流れを変える

SGLT2阻害薬を使用すると、近位尿細管で血液中へ戻される糖とナトリウムが減ります。

その結果、腎臓の奥にある「緻密斑」という部分へ届くナトリウムが増えます。

腎臓はこれを感知して、糸球体へ流れ込む血液量を調整します。この仕組みを「尿細管糸球体フィードバック」といいます。

これにより、糸球体にかかっていた過剰な圧力が軽減されます。

イメージとしては、勢いよく水が流れ込んでいたフィルターの水圧を、適切な範囲まで少し下げるような働きです。

尿アルブミンを減らすことがある

糸球体内の圧力が軽減されると、血液中のアルブミンが尿へ漏れ出しにくくなります。

そのため、SGLT2阻害薬の使用によって尿アルブミンが減少することがあります。

尿アルブミンは、糖尿病による腎障害を早期に見つけるための大切な検査です。

関連記事:尿アルブミンとeGFRは何が違う?

心臓への負担も軽減する

SGLT2阻害薬には、尿中へのナトリウム排泄を増やし、体内の余分な水分を軽減する働きもあります。

血圧や心臓への負担を軽くすることが、腎臓を守る効果にも関係していると考えられています。

ただし、SGLT2阻害薬の心臓・腎臓保護作用は一つの仕組みだけでは説明できず、複数の作用が関係していると考えられています。

血糖値があまり下がらなくても腎臓を守る?

腎機能が低下すると、SGLT2阻害薬による血糖降下作用は弱くなることがあります。

しかし、血糖値への効果が小さくなっても、腎臓や心臓を守る効果が期待できる場合があります。

実際に、慢性腎臓病を対象とした大規模臨床試験では、糖尿病の有無にかかわらず、SGLT2阻害薬によって腎機能悪化や腎不全などのリスクが低下することが示されています。

つまり、SGLT2阻害薬は単なる「血糖値を下げる薬」ではなく、現在では「腎臓や心臓を守る薬」としても使用されています。

飲み始めにeGFRが下がるのはなぜ?

SGLT2阻害薬を開始すると、最初の数週間にeGFRが少し下がることがあります。これを「initial dip」と呼びます。

これは、糸球体内にかかっていた高い圧力が調整されることによって起こる変化です。

短期的にはeGFRが下がって見えますが、その後は安定し、長期的には腎機能低下の速度が緩やかになることが期待されます。

したがって、軽度のeGFR低下だけを理由に、

「薬で腎臓が傷んだ」

と判断することはできません。

KDIGO 2024年版ガイドラインでも、SGLT2阻害薬開始後の可逆的なeGFR低下は、通常、それだけでは中止理由にならないとされています。

どのくらい下がったら確認が必要?

SGLT2阻害薬開始後にeGFRが低下した場合には、低下率だけでなく、体調や他の薬も含めて判断します。

特に、開始前からeGFRが30%を超えて低下した場合には、次のような原因が隠れていないか確認が必要です。

  • 下痢や嘔吐による脱水
  • 発熱や食事摂取量の低下
  • 血圧の低下
  • 利尿薬の影響
  • NSAIDsと呼ばれる痛み止めの使用
  • 感染症
  • 心不全
  • 尿路の閉塞
  • その他の急性腎障害

30%を超えて低下したからといって、必ずSGLT2阻害薬が原因とは限りません。また、自己判断で中止するのではなく、処方した医療機関へ相談してください。

関連記事:eGFRが急に下がったらどうする?一時的な変化と腎臓病の違い

どのような人に腎保護効果が期待される?

特に使用が検討されるのは、次のような方です。

  • 2型糖尿病と慢性腎臓病がある
  • 尿アルブミンや尿たんぱくが増えている
  • eGFRが低下している
  • 心不全がある
  • 将来の腎機能低下リスクが高い

国際的なKDIGOガイドラインでは、2型糖尿病と慢性腎臓病があり、eGFRが20mL/分/1.73m²以上の患者さんにSGLT2阻害薬が推奨されています。

ただし、国内で開始できる腎機能の範囲や適応は、薬剤ごとに異なります。年齢、体格、栄養状態、血圧、併用薬なども考慮して判断します。

すべての糖尿病患者さんが飲むべき薬という意味ではありません。

使用するときに注意したい副作用

脱水や血圧低下

尿量が増えることがあるため、脱水や血圧低下に注意します。

特に注意が必要なのは、次のような方です。

  • 高齢者
  • 利尿薬を使用している
  • 血圧が低い
  • 食事や水分が十分に取れない
  • 下痢や嘔吐がある
  • 腎機能が低下している
  • 筋肉量や体重が少ない

ただし、心不全や進行した腎臓病がある方が、自己判断で水分を大量に摂取することも危険です。水分量については主治医の指示に従ってください。

尿路・性器感染症

尿中の糖が増えるため、性器感染症が起こりやすくなることがあります。

陰部のかゆみ、痛み、発赤、排尿時の痛みなどがある場合は、早めに医療機関へ相談してください。

ケトアシドーシス

頻度は高くありませんが、SGLT2阻害薬ではケトアシドーシスが起こることがあります。

血糖値がそれほど高くなくても発症する「正常血糖ケトアシドーシス」に注意が必要です。

次の症状がある場合は、服用中であることを伝えて早めに受診してください。

  • 強い吐き気や嘔吐
  • 腹痛
  • 強いだるさ
  • 息苦しさ
  • 食事が取れない
  • 意識がぼんやりする

低血糖

SGLT2阻害薬だけでは、一般に重い低血糖は起こしにくい薬です。

ただし、インスリン製剤やSU薬などと併用すると、低血糖の危険性が高くなることがあります。必要に応じて、併用薬の量を調整します。

発熱・下痢・食事が取れないときは?

発熱、下痢、嘔吐などで食事や水分が取れない状態を「シックデイ」といいます。

このような状態でSGLT2阻害薬を続けると、脱水やケトアシドーシスの危険性が高くなることがあります。

長時間の絶食、手術、重い感染症などの際にも、一時的な休薬が必要になる場合があります。

ただし、薬を中止する基準や再開時期は患者さんによって異なります。あらかじめ主治医からシックデイ時の対応を確認しておきましょう。

よくある質問

SGLT2阻害薬は腎臓が悪い人には危険ですか?

腎機能が低下しているから一律に危険というわけではありません。

むしろ、慢性腎臓病の進行を抑える目的で使用されることがあります。ただし、薬剤ごとに適応や開始できる腎機能が異なるため、個別の判断が必要です。

尿に糖を出すと腎臓が疲れませんか?

尿に糖が出ること自体が、腎臓を傷めるという意味ではありません。

SGLT2阻害薬は、糖とナトリウムの再吸収を抑えることで、糸球体にかかる過剰な圧力を軽減します。

eGFRが下がったら、すぐ中止した方がよいですか?

軽度の一時的な低下であれば、必ずしも中止する必要はありません。

一方、大きく低下した場合や、脱水、低血圧、体調不良を伴う場合には原因を確認します。自己判断で中止せず、医療機関へ相談してください。

SGLT2阻害薬を飲めば透析を防げますか?

SGLT2阻害薬は、腎機能低下を遅らせ、腎不全のリスクを減らすことが期待される薬です。

ただし、透析を必ず防げる薬ではありません。

血圧、血糖値、尿アルブミン、喫煙、体重、食事、ほかの治療薬なども含め、総合的に腎臓を守ることが大切です。

関連記事:糖尿病になると腎臓が悪くなる?

まとめ

SGLT2阻害薬は、尿中へ糖を排出して血糖値を下げるだけの薬ではありません。

腎臓内の糖とナトリウムの流れを変え、糸球体にかかる過剰な圧力を軽減することで、腎機能低下を抑える効果が期待されます。

飲み始めにeGFRが少し下がることがありますが、これは腎臓への負担が軽減されたことに伴う一時的な変化の場合があります。

ただし、eGFRの大幅な低下、脱水、嘔吐、食事摂取困難などがある場合は確認が必要です。

SGLT2阻害薬を使用するときは、自己判断で開始・中止せず、体調不良時の対応も含めて主治医と相談しましょう。

※本記事は一般的な医療情報を提供するもので、個別の診断や治療を目的としたものではありません。薬の開始・中止・休薬については、必ず主治医へご相談ください。

参考文献・情報源

  1. KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease
  2. 日本腎臓学会:CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation
  3. Heerspink HJL, et al. Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020
  4. The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2023