食事と運動をもう一歩深く 第5回
「糖尿病だから、ご飯を減らした方がいいですよね?」
外来でよく聞かれる質問です。
糖質を含む食品を食べると、食後の血糖値は上がります。
そのため、
「糖質を減らせば血糖値が下がる」
↓
「糖質を減らせばやせる」
↓
「糖質は太る原因だから、できるだけ食べない方がいい」
と考えてしまうことがあります。
でも、この3つは同じ話ではありません。
今回は、血糖値と体脂肪をいったん分けて考えてみましょう。
糖質は血糖値に大きく影響します
ご飯、パン、麺類などに多く含まれる糖質は、消化・吸収されてブドウ糖となり、血液中に入ります。
そのため、食事に含まれる糖質の量や種類は、食後血糖に大きく影響します。
これは糖尿病の食事を考えるうえで、とても重要です。
ただし、
「血糖値を上げる」ことと「そのまま体脂肪になる」ことは同じではありません。
ここを分けて考える必要があります。
糖質は体にとってエネルギー源です
糖質というと、糖尿病では悪者のように扱われることがあります。
しかし糖質は、私たちの体が利用する重要なエネルギー源の一つです。
筋肉を動かすときにも使われます。
私が自転車でヒルクライムをしていたときも、長い坂を登り続けるにはエネルギーが必要でした。
体重を軽くしたいからといって、食事を極端に減らしてエネルギー不足になれば、思うように力を出せなくなります。
ですから、
糖質=不要なもの
ではありません。
大切なのは、自分に合った量と取り方を考えることです。
では、脂質はどうでしょう?
脂質も重要な栄養素です。
そして脂質は、糖質やたんぱく質と比べて、1gあたりに含まれるエネルギーが多いという特徴があります。
一般的な目安では、
糖質:1gあたり約4kcal
たんぱく質:1gあたり約4kcal
脂質:1gあたり約9kcal
です。
同じ「10g」でも、含まれるエネルギー量は違います。
そのため、揚げ物、脂身の多い食品、菓子類などは、見た目の量がそれほど多くなくてもエネルギー量が大きくなることがあります。
ただし、ここでも、
脂質=食べてはいけない
ではありません。
脂質にも体に必要な働きがあります。
「糖質と脂質、どちらが太る?」という質問
これは、とても答えにくい質問です。
なぜなら、体脂肪の増減を考えるときには、第3回で説明したエネルギー収支を無視できないからです。
糖質だけを減らしても、その代わりに脂質を多くとり、全体のエネルギー摂取量が増えれば、必ずしも減量につながるとは限りません。
逆に脂質だけを極端に減らしても、他の食品から必要以上にエネルギーをとっていれば同じです。
つまり、
「何を一つ悪者にするか」より、食事全体を見る
ことが大切です。
糖質を減らすと、最初に体重が落ちることがあります
糖質を大きく減らしたとき、比較的短期間で体重が減ることがあります。
すると、
「やっぱり糖質を減らせば脂肪がどんどん減るんだ」
と思うかもしれません。
しかし、第2回でお話ししたように、
体重が減った=すべて体脂肪が減った
とは限りません。
体内では糖質の一部がグリコーゲンとして蓄えられており、それには水分も関係しています。
糖質摂取量が大きく変わると、グリコーゲンやそれに伴う水分が変化し、短期間で体重が動くことがあります。
そのため、最初の数日の体重変化だけで、脂肪がどれだけ減ったかを判断することはできません。
「ご飯を抜く」より考えてほしいこと
たとえば、
「夕食のご飯を全部やめました」
という方がいます。
それで無理なく食事全体が整う人もいるかもしれません。
一方で、ご飯を我慢した反動で、
「お腹がすいて、あとでお菓子を食べてしまう」
ということもあります。
そうなると、
ご飯を抜いたことだけを見ても、食事全体が改善したかどうかは分かりません。
ですから私は、
「何を禁止するか」ではなく、「一日の食事全体がどうなっているか」
を見ることが大切だと考えています。
糖尿病では「量」だけでなく「食べ方」も大切
糖尿病の場合、体重管理だけを考えればよいわけではありません。
食後の血糖値も考える必要があります。
同じ量の糖質でも、食品の種類、他のおかずとの組み合わせ、食べる時間、食後の活動などによって、血糖値の上がり方は変わります。
ですから、
体重をどうするか
と
食後血糖をどうするか
は関連していますが、まったく同じ問題ではありません。
ここを整理すると、食事療法がかなり分かりやすくなります。
ヒルクライムでは「軽くする」と「走る」を両立させる
ヒルクライムでは、体重が軽いほど有利になる場面があります。
しかし、レースで必要なのは軽さだけではありません。
24kmの上り坂を最後まで走るためのエネルギーも必要です。
減量のために食事を極端に制限して、練習やレースで力が出なくなれば本末転倒です。
そこで考えるのは、
余分なものは減らしたい。でも、必要なものまで減らさない。
ということです。
糖尿病の食事療法も同じように、
「何を食べないか」だけで考えない
ことが大切だと思います。
極端な糖質制限を自己判断で始めない
糖質摂取量を調整することが治療に役立つ場合はあります。
しかし、すべての糖尿病患者さんに同じ方法が適しているわけではありません。
特に、インスリンや一部の糖尿病薬を使用している場合、食事量を急に大きく変えると低血糖につながる可能性があります。
また、腎臓病などがあれば、食事について別の配慮が必要になることもあります。
インターネットで見つけた食事法をそのまま自己流で始めるのではなく、自分の治療内容に合わせて考えることが大切です。
「続けられる食事」であること
どんな食事方法でも、数日だけなら頑張れるかもしれません。
でも、糖尿病の治療はその先も続きます。
だから私は、
「一番体重が減る食事」だけでなく、「その人が長く続けられる食事」
を考えることが重要だと思っています。
ご飯が好きな人に、
「今日から一生、ご飯は禁止です」
という方法が本当に続くでしょうか。
食べる楽しみも生活の一部です。
完全に禁止するより、
量を少し調整する、組み合わせを考える、食べ方を工夫する。
そうした方法の方が合っている人もいます。
今回のポイント
糖質は食後血糖に大きく影響します。
一方、体脂肪の増減には食事全体のエネルギーバランスが関係します。
脂質は1gあたりのエネルギー量が多いという特徴がありますが、糖質も脂質も体に必要な栄養素です。
ですから、
糖質か脂質のどちらか一つを悪者にするのではなく、食事全体を見る。
そして、
血糖値・体重・栄養・続けやすさを一緒に考える。
これが糖尿病の食事療法では大切です。
では、減量中に「できるだけ減らしたくないもの」は何でしょう。
その一つが筋肉です。
そして筋肉を維持するために重要な栄養素の一つが、たんぱく質です。
次回
減量中こそ「たんぱく質」が大切?―筋肉を減らさないための食事
「やせるために食事を減らしたら、筋肉まで落ちてしまった」
これでは理想的な減量とはいえません。
第6回では、筋肉とたんぱく質の関係を取り上げます。ただし、「たんぱく質をたくさん食べればよい」という話ではありません。糖尿病、とくに腎臓病がある場合の注意点まで説明します。
医療情報について
この記事は糖尿病の食事療法・体重管理に関する一般的な医学情報です。糖質、脂質、たんぱく質の適切な摂取量は、体格、身体活動量、糖尿病治療薬、腎機能、その他の疾患などによって異なります。
インスリンや低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方、腎臓病などで食事療法を行っている方は、食事内容を大きく変更する前に主治医や管理栄養士にご相談ください。

