食事と運動をもう一歩深く 第10回
「糖尿病にはウォーキングがいいと聞きました」
一方で、
「筋肉をつけると血糖が下がりやすくなるから、筋トレがいい」
という話も聞きます。
では、結局どちらをすればよいのでしょうか。
ウォーキングを30分するのと、スクワットをするのではどちらが効果的なのでしょう。
答えを先に言えば、
どちらか一つを選ぶ必要はありません。
有酸素運動と筋力トレーニングには、それぞれ違ったよさがあります。
可能であれば、両方を無理なく組み合わせることを考えてみましょう。
有酸素運動の得意なこと
第8回で、ウォーキングや自転車などの有酸素運動について説明しました。
有酸素運動では、筋肉を繰り返し動かしながらエネルギーを使います。
糖質も脂肪もエネルギー源として利用されます。
また、継続することでインスリンの働きや心肺機能、体力などによい影響が期待できます。
つまり有酸素運動は、
「長く動ける体をつくる運動」
と考えると分かりやすいかもしれません。
ウォーキング、自転車、水泳など、自分が続けやすいものを選べます。
筋トレの得意なこと
一方、第9回で説明した筋力トレーニングは、筋肉に適切な負荷をかける運動です。
筋肉は、血液中のブドウ糖を取り込んで利用する大切な場所です。
そして年齢とともに筋肉量や筋力は低下しやすくなります。
そのため筋トレには、
「筋肉や筋力をできるだけ維持する」
という大切な役割があります。
特に減量中には、体脂肪だけでなく筋肉まで減ってしまわないようにするという意味でも重要です。
どちらが「血糖を下げる」のでしょう?
ここで、
「ではHbA1cを下げるならどちらですか?」
と思うかもしれません。
有酸素運動にも、筋力トレーニングにも、糖尿病の血糖管理に役立つことを示す研究があります。
そして、両者を組み合わせる方法にもメリットがあります。
ですから、
ウォーキングか筋トレかを競わせる必要はありません。
それぞれ違う方法で体に働きかけるため、
「有酸素運動+筋力トレーニング」
という考え方ができます。
自転車に乗っていれば筋トレはいらない?
私は自転車を長く続けてきましたので、これは興味深い質問です。
自転車でも脚の筋肉を使います。
坂道を登れば、かなり大きな力を出すこともあります。
では、
「自転車に乗っているから筋トレは必要ない」
のでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
自転車と筋力トレーニングでは、筋肉への刺激の入り方が同じではありません。
また、自転車では主に下半身を使いますが、日常生活では上半身や体幹も使います。
糖尿病の運動療法では、競技能力を上げることが目的ではありません。
全身を使って、これからも生活できる体を維持する
という視点も持っておきたいところです。
「毎日ウォーキング+毎日筋トレ」でなくていい
ここまで読むと、
「両方必要なら、毎日ウォーキングして、そのあと筋トレもしないといけないの?」
と思うかもしれません。
そんなことはありません。
運動療法は、
できるだけ多くやった人が勝ち
という競争ではありません。
仕事や家事があります。
雨の日もあります。
疲れている日もあります。
大切なのは、理想的な予定表を作ることではなく、
自分の生活の中に入れられる形を探すこと
です。
たとえば、こんな1週間でもいい
運動をほとんどしていなかった方なら、最初から完璧なプログラムを作る必要はありません。
たとえば、
月曜日:10~20分歩く
火曜日:椅子からの立ち座りなど簡単な筋トレ
水曜日:休む
木曜日:10~20分歩く
金曜日:簡単な筋トレ
土曜日:買い物などで少し多く歩く
日曜日:休む
という始め方もあります。
もちろん、これは一例です。
毎日歩く方が続けやすい人もいます。
自転車が好きな人なら、ウォーキングの代わりに自転車でもよいでしょう。
重要なのは、
「この通りにしなければならない」のではなく、自分の生活に合わせること
です。
「運動する日」だけが運動ではありません
ここで、もう一つ考えてほしいことがあります。
私たちが体を動かすのは、「運動」としてウォーキングをしている時間だけではありません。
通勤で歩く。
買い物に行く。
掃除をする。
階段を上る。
庭仕事をする。
こうした日常生活の活動も、体を動かす大切な時間です。
「今日はウォーキング30分ができなかったから運動ゼロ」
と考える必要はありません。
一日を通して、どれくらい体を動かしたか
という視点も持ってみましょう。
座っている時間にも目を向ける
運動を30分していても、残りの時間をほとんど座って過ごしているということがあります。
仕事や生活上、長時間座らなければならない方もいるでしょう。
そんなときでも、
少し立つ。
飲み物を取りに歩く。
休憩時間に少し体を動かす。
といった方法があります。
「運動の時間を増やす」だけでなく、
長く座りっぱなしにならないようにする
という視点も大切です。
食後に少し動くという方法もあります
糖尿病では、運動する「タイミング」も興味深いテーマです。
特に食後は血糖値が上昇します。
その時間に筋肉を動かすことで、食後血糖にどのような影響があるのでしょうか。
これは、
「1日30分運動すれば、いつやっても同じなの?」
という疑問にもつながります。
食後の運動については、次回詳しく取り上げます。
ヒルクライムでも一種類の練習だけではありませんでした
ヒルクライムのレースでは、長い坂を登り続けます。
だからといって、
毎日同じ坂を同じ速さで登る
だけが練習ではありません。
長く走る日。
少し強度を上げる日。
軽く走る日。
休む日。
目的によって内容を変えます。
糖尿病の運動療法も、競技のようなトレーニングをする必要はありませんが、
一つの運動だけですべてを解決しようとしなくてよい
という点は似ています。
歩くこと。
筋肉を使うこと。
日常生活で動くこと。
休むこと。
それらを自分に合った形で組み合わせればよいのです。
一番大切なのは「続けられる組み合わせ」
理論上とてもよい運動でも、3日でやめてしまえば長期的には続きません。
反対に、
「これならできる」
という運動を生活の中に組み込めれば、半年、1年と続けられる可能性があります。
だから、
有酸素運動と筋トレのどちらが上か
を考えるより、
自分なら、この二つをどう組み合わせれば続けられるか
を考えてみてください。
ウォーキングが好きなら、まずウォーキングを中心に。
筋トレが苦手なら、椅子からの立ち座りから。
自転車が好きなら、自転車を楽しむ。
そこへ少しずつ足していけばよいのです。
今回のポイント
有酸素運動と筋力トレーニングには、それぞれ異なるよさがあります。
糖尿病の運動療法では、
「どちらが正解か」ではなく、「可能なら両方を組み合わせる」
と考えてみましょう。
そして、運動の時間だけでなく、普段の生活で体を動かすことや、長時間座り続けないことにも意味があります。
最初から完璧な運動メニューを作る必要はありません。
歩く。
筋肉を使う。
日常生活で動く。
そして、きちんと休む。
これを、自分の生活に合わせて続けることが大切です。
さて、ここまで「どんな運動をするか」を考えてきました。
次に考えたいのは、
「いつ運動するか」
です。
次回
食後に動くとなぜ血糖が下がる?―食後運動と筋肉の糖取り込み
「運動するなら朝と夜、どちらがいい?」
「食後すぐに歩いてもいい?」
「食後10分歩くだけでも意味がある?」
第11回では、食後血糖と運動のタイミングを取り上げます。
筋肉がブドウ糖を使う仕組みから、日常生活に取り入れやすい「食後に少し動く」という方法まで説明します。
医療情報について
この記事は、糖尿病の運動療法に関する一般的な医学情報です。適切な運動の種類、強度、頻度は、年齢、体力、糖尿病治療薬、合併症などによって異なります。
特に心血管疾患、眼合併症、神経障害、足病変などがある方や、インスリン・低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方は、運動内容について主治医にご相談ください。

