糖尿病の薬を使っていて低血糖を繰り返すときは?HbA1cは低いほどいいの?

糖尿病の患者さんから、

「HbA1cが6%台なら、とても良いですよね?」
「血糖値は低ければ低いほどいいのですか?」
「ときどき低血糖になりますが、HbA1cが良いので薬はこのままでいいですか?」
「先生に薬を減らしましょうと言われました。糖尿病が悪くならないか心配です」

と聞かれることがあります。

HbA1cは糖尿病治療でとても大切な検査です。

しかし、

HbA1cは低ければ低いほどよい、というわけではありません。

特に糖尿病の薬やインスリンを使用している方では、

良いHbA1cを目指すことと、低血糖を防ぐことの両方が大切です。

HbA1c 7%未満なら治療は成功?

一般に、糖尿病の合併症を予防するための血糖管理目標として、HbA1c 7%未満が一つの目安になります。

しかし、これは、

「糖尿病の人は全員7%未満にしなければならない」

という意味ではありません。

治療目標は、

年齢
糖尿病になってからの期間
合併症
低血糖の危険性
使用している薬
認知機能や身体機能
ほかの病気

などによって変わります。

つまり、

自分に合ったHbA1cの目標が大切

なのです。

HbA1c 6%台なのに治療を弱めることがあるの?

あります。

たとえば、

「HbA1cは6.3%です」

という数字だけを見ると、非常によく管理されているように見えます。

しかし実際には、

朝は60mg/dL
昼は200mg/dL
夜中に低血糖

というように、血糖値が大きく変動している可能性もあります。

HbA1cだけでは、低血糖が何回起きているかまでは分かりません。

そのため、

HbA1cが良くても低血糖を繰り返している場合には、治療を見直すことがあります。

低血糖とは?

一般に、血糖値が70mg/dL未満になった場合には低血糖として注意が必要です。糖尿病情報センターも、症状の有無にかかわらず70mg/dL未満を低血糖として扱っています。

低血糖になると、

冷や汗
手のふるえ
動悸
強い空腹感
力が入らない
ぼんやりする

などの症状が出ることがあります。

さらに低下すると、

判断力の低下
異常な行動
けいれん
意識障害

などにつながることがあります。

症状がなければ低血糖ではない?

そうとは限りません。

低血糖を繰り返している方では、血糖値が低下しても症状を感じにくくなることがあります。

これを無自覚性低血糖といいます。

「何ともないから大丈夫」

と思っているうちに、さらに血糖値が低下する可能性があります。

特に高齢の方では、典型的な低血糖症状が出にくいことがあります。

高齢者では低血糖に特に注意

高齢になると、

腎機能が低下する
食事量が変わる
薬が体内に残りやすくなる
低血糖の症状を感じにくくなる

などの変化が起こることがあります。

そのため、

以前と同じ薬を同じ量使っていても、年齢とともに低血糖が起こりやすくなる

ことがあります。

高齢者の重症低血糖は、転倒・骨折などにつながる可能性もあるため、特に注意が必要です。

低血糖を起こしやすい薬は?

糖尿病の薬すべてが、同じように低血糖を起こすわけではありません。

特に注意が必要なのは、

インスリン
SU薬(スルホニル尿素薬)

などです。

グリニド薬でも低血糖が起こることがあります。

一方、単独使用では低血糖を起こしにくい糖尿病薬もあります。

ただし、薬を組み合わせることで低血糖の危険性が変わることがあります。

自分の薬が低血糖を起こしやすい薬なのか、一度確認しておくとよいでしょう。

低血糖を繰り返す原因は薬だけ?

薬だけとは限りません。

たとえば、

食事を抜いた
食事量が少なかった
食事時間が遅れた
いつもより運動した
飲酒した
体重が減った
腎機能が変化した

などによっても低血糖が起こることがあります。

以前はちょうどよかった薬の量が、現在の生活や体の状態には多くなっている場合もあります。

夜中の低血糖は気づきにくい

睡眠中の低血糖は、自分では気づかないことがあります。

朝起きたときに、

強いだるさ
頭痛
寝汗

などがみられることもありますが、症状だけで夜間低血糖と判断することはできません。

夜間低血糖が疑われる場合には、血糖測定の時間を工夫したり、必要に応じて持続血糖測定などを利用したりして確認することがあります。

糖尿病情報センターでも、HbA1cが良好でも低血糖を繰り返していた症例で、持続血糖測定によって就寝中の無自覚性低血糖が確認された例が紹介されています。

HbA1cだけ見ていてはいけないの?

HbA1cは非常に重要です。

しかし、

HbA1cだけで糖尿病治療の良し悪しをすべて判断することはできません。

同じHbA1c 7.0%でも、

一日を通して比較的安定している方と、

高血糖と低血糖を大きく繰り返している方では、

治療上の意味が違うことがあります。

そのため診療では、

HbA1c
血糖値
低血糖の有無
生活状況
使用している薬

などを合わせて考えます。

HbA1cが低すぎたら危険?

HbA1cの数字そのものだけで「危険」と決めることはできません。

薬を使わず、安全に低いHbA1cを維持できている方もいます。

問題になるのは、

低血糖を起こしやすい治療を行っている中で、低血糖を繰り返しながらHbA1cを下げている場合

です。

「HbA1c 6%台だから良い」

と数字だけを見ず、

その値をどのように達成しているか

が重要です。

HbA1cが上がっても薬を減らした方がいいことがある?

あります。

たとえば、低血糖を繰り返している高齢の方で薬を減らした結果、

HbA1c 6.2% → 7.0%

となったとします。

数字だけを見ると、

「糖尿病が悪くなった」

ように感じるかもしれません。

しかし、低血糖がなくなり、安全に生活できるようになったのであれば、その方にとって治療が改善している可能性があります。

高齢者では、重症低血糖の危険性などを考慮して血糖目標を個別に設定することが推奨されています。

薬を減らすことは「治療をあきらめること」ではありません

糖尿病治療では、薬を追加するだけが治療ではありません。

必要に応じて、

薬の量を減らす
低血糖を起こしにくい薬へ変更する
インスリン量を調整する
治療方法を簡単にする

ことも大切な治療です。

特に年齢や体重、食事量、腎機能などが変化したときには、以前の治療をそのまま続けることが最適とは限りません。

低血糖になったらどうする?

意識があり、安全に飲み込める場合には、ブドウ糖など吸収の速い糖質をとります。

一般的にはブドウ糖10~20g程度が一つの目安です。

可能であれば約15分後に血糖値を確認し、まだ低い場合には再度対応します。

ただし、

意識がもうろうとしている
けいれんしている
意識がない

場合には、無理に食べ物や飲み物を口に入れてはいけません。

誤嚥する危険があります。

救急対応が必要です。

グルカゴンを処方され、家族などが使用方法を教わっている場合には、その指示に従います。

低血糖になったら薬を自分で減らしていい?

自己判断で薬を中止・減量するのではなく、主治医へ相談してください。

ただし、

低血糖を何度も起こしているのに、次の定期受診まで何週間もそのまま我慢する必要もありません。

繰り返す低血糖は、治療を見直す重要なサインです。

特に、

夜間にも起こる
自覚症状がない
他人の助けが必要になった
意識を失った

という場合には、早めに医療機関へ相談してください。

「HbA1cを下げるために低血糖を我慢する」は間違い

糖尿病治療は、HbA1cの数字を競うものではありません。

HbA1cを下げるために、

食事を極端に減らす
低血糖を我慢する
ふらふらしても薬を続ける

必要はありません。

目標は、

低血糖をできるだけ避けながら、自分に合った範囲で血糖を管理すること

です。

診察で伝えてほしいこと

低血糖があった場合には、

いつ起きたか
そのときの血糖値
食事を食べたか
運動をしたか
飲酒していたか
どの薬・インスリンを使用したか

などを伝えると、原因を考えやすくなります。

「低血糖があったけれど、HbA1cが良いから言わなくてもいい」

とは考えないでください。

低血糖の情報は、HbA1cと同じくらい治療を考えるうえで大切です。

今日覚えてほしい3つのこと

① HbA1cは低ければ低いほどよいわけではありません

② 良いHbA1cでも、低血糖を繰り返していれば治療の見直しが必要なことがあります

③ 糖尿病治療の目標は「最低のHbA1c」ではなく、低血糖を避けながら自分に合った血糖管理を続けることです

まとめ

HbA1cは糖尿病治療の大切な指標です。

しかし、

HbA1cの数字だけを下げることが治療の目的ではありません。

特にインスリンや低血糖を起こしやすい薬を使用している方では、

「HbA1cは良いけれど、低血糖を繰り返していないか」

という視点が重要です。

また、高齢になると、若いころと同じ血糖目標や薬の量が適切とは限りません。

治療を弱めたり薬を減らしたりすることも、

安全な血糖管理を続けるための積極的な治療

です。

「HbA1cが上がるのが怖いから、低血糖を我慢する」

必要はありません。

自分にとって安全なHbA1cの目標を、主治医と一緒に決めることが大切です。

参考文献・情報源