HbA1cと血糖値が合わないのはなぜ?―貧血・腎臓病・透析との関係

HbA1c・血糖

「血糖値は高いと言われているのに、HbA1cはそれほど高くありません」

「毎日の血糖値を見ると高いはずなのに、HbA1cだけを見ると良さそうに見えます」

糖尿病の診療をしていると、このようなことがあります。

HbA1cは糖尿病の状態を知るためにとても重要な検査ですが、HbA1c=血糖値そのものではありません。

特に、貧血がある方、腎臓の機能が低下している方、透析治療を受けている方などでは、HbA1cと実際の血糖状態が一致しないことがあります。

今回は、なぜこのような「ずれ」が起こるのかをわかりやすく解説します。


HbA1cは何を測っている?

HbA1c(ヘモグロビンA1c)は、赤血球の中にあるヘモグロビンにブドウ糖が結びついたものです。

血糖値が高い状態が続くほど、ヘモグロビンに結びつくブドウ糖の割合も増えるため、HbA1cは過去1~2か月を中心とした血糖状態を反映する指標として使われています。

そのため、

血糖が高い状態が続く
↓
HbA1cも高くなる

というのが基本です。

しかし、ここには大切なポイントがあります。

HbA1cは、

「血糖」だけで決まる検査ではない

ということです。


HbA1cには「赤血球の寿命」が関係する

HbA1cを理解するうえで重要なのが、赤血球です。

赤血球は作られてから一定期間、血液の中を循環します。その間にヘモグロビンへ少しずつブドウ糖が結びついていきます。

つまり、

赤血球が長く血液中にいる
→ ブドウ糖と接する時間が長い
→ HbA1cが高くなりやすい

反対に、

赤血球が早く入れ替わる
→ ブドウ糖と接する時間が短い
→ HbA1cが低くなりやすい

という関係があります。

このため、同じくらいの血糖値であっても、赤血球の状態が違えばHbA1cが違って見えることがあります。


血糖値は高いのにHbA1cが低くなることがあるのはなぜ?

代表的な原因の一つが、赤血球の寿命が短くなることです。

たとえば、

  • 一部の貧血
  • 溶血
  • 出血後
  • 輸血
  • 腎不全
  • 透析
  • 赤血球を作る治療(ESAなど)

では、HbA1cの値を解釈するときに注意が必要になることがあります。

大切なのは、

HbA1cが低い=必ず血糖コントロールが良い

とは限らない、ということです。


貧血があるとHbA1cはどうなる?

「貧血ならHbA1cは必ず低くなる」と考えるのも正確ではありません。

貧血にはさまざまな原因があるからです。

赤血球の寿命が短くなるタイプの貧血では、HbA1cが実際の血糖状態より低く見えることがあります。

一方、鉄欠乏性貧血では、逆にHbA1cが高めに出ることがあります。

つまり、

貧血がある
= HbA1cが必ず同じ方向に変化する

わけではありません。

「どのような原因の貧血なのか」を考えることが重要です。


腎臓が悪くなるとHbA1cの解釈が難しくなる

慢性腎臓病(CKD)が進行すると、貧血が起こりやすくなります。

腎臓では、赤血球を作るよう骨髄に働きかける「エリスロポエチン」というホルモンが作られています。

腎機能が低下すると、この働きが不足して腎性貧血が起こることがあります。

さらに進行した腎臓病では、

  • 貧血
  • 赤血球寿命の変化
  • 鉄の状態
  • ESAによる貧血治療
  • 輸血

など、HbA1cに影響する要因が重なることがあります。

そのため、腎機能がかなり低下した患者さんでは、HbA1cだけから血糖状態を判断することが難しくなる場合があります。

腎機能が低下すると、HbA1cの解釈だけでなく、糖尿病薬の選び方にも注意が必要になります。


透析患者さんではさらに注意が必要

血液透析を受けている患者さんでは、この問題が特に重要になります。

透析患者さんには腎性貧血が多く、ESA(赤血球造血刺激因子製剤)や鉄剤による治療が行われることがあります。

ESAによって新しい赤血球が増えると、血液中の赤血球の「年齢構成」が変化します。

その結果、

実際の血糖状態に大きな変化がなくても、HbA1cが変化する

ことがあります。

したがって、

血糖値は高い
↓
ところがHbA1cはそれほど高くない
↓
「糖尿病は良くなっている」と判断する

という単純な考え方には注意が必要です。

透析患者さんでは、HbA1cだけを見るのではなく、実際の血糖値や血糖の推移なども合わせて考えることが重要です。


HbA1cが信用できないということ?

そういう意味ではありません。

HbA1cは糖尿病診療において非常に重要な検査です。

ただし、どんな検査にも「得意なこと」と「限界」があります。

HbA1cの場合、

血糖状態+赤血球の状態

の影響を受けるという特徴があります。

したがって、HbA1cと実際の血糖値がよく一致している患者さんでは非常に便利な指標ですが、両者が合わない場合には、

「なぜ合わないのだろう?」

と考えることが大切です。


HbA1cと血糖値が合わないときは何を見る?

状況によって、医療機関ではHbA1c以外の情報も組み合わせて判断します。

たとえば、

  • 自宅で測定した血糖値
  • 医療機関で測定した血糖値
  • CGM(持続グルコース測定)の結果
  • グリコアルブミンなどの別の血糖指標
  • ヘモグロビン値
  • 貧血の原因
  • 腎機能
  • 最近の出血や輸血
  • ESAや鉄剤などの治療状況

などです。

特にCGMを使用している場合には、「平均血糖」だけではなく、目標範囲内に血糖が入っている時間(TIR)なども血糖管理を考える材料になります。

食後血糖については、こちらの記事でも詳しく解説しています。


HbA1cだけを見て一喜一憂しなくて大丈夫です

HbA1cが前回より上がると、

「頑張ったのに……」

とがっかりする方がいます。

逆にHbA1cが下がると、

「糖尿病が良くなった」

と思うかもしれません。

もちろんHbA1cの変化は大切です。

しかし、HbA1cは糖尿病の状態を見るための一つの指標です。

特に貧血や腎臓病がある場合には、

HbA1cの数字だけではなく、その背景を見る

ことが重要です。

HbA1cが低くても、低血糖を繰り返していれば必ずしも理想的な血糖管理とはいえません。


こんな場合は主治医に相談してみましょう

次のような場合には、HbA1cだけで判断せず主治医に相談してみてください。

  • 自宅の血糖値は高いのにHbA1cが低い
  • CGMの平均血糖とHbA1cが合わない
  • 最近、貧血が進んだ
  • 出血や輸血があった
  • ESAや鉄剤による治療を受けている
  • 腎機能がかなり低下している
  • 透析治療を受けている

HbA1cと血糖値の「ずれ」そのものが、身体の状態を考えるヒントになることもあります。


まとめ

HbA1cは糖尿病の血糖管理を評価するうえで、とても重要な検査です。

ただし、

HbA1c=血糖値そのもの

ではありません。

HbA1cには血糖だけでなく、赤血球の寿命や入れ替わりも影響します。

そのため、

貧血・出血・輸血・腎不全・透析・ESA治療などがある場合には、HbA1cと実際の血糖状態が一致しないことがあります。

大切なのは、一つの数字だけを見ることではありません。

HbA1c、実際の血糖値、貧血や腎臓の状態などを合わせて見ることで、その人の血糖状態をより正確に理解することができます。

「HbA1cは良いのに血糖値が高い。どうしてだろう?」

そんなときは、HbA1cだけを見て安心したり心配したりせず、主治医と一緒にその理由を考えてみてください。


参考文献

  1. American Diabetes Association Professional Practice Committee. Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1).
  2. Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. KDIGO 2022 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2022;102(Suppl 5S):S1-S127.
  3. National Glycohemoglobin Standardization Program (NGSP). Factors that Interfere with HbA1c Test Results.

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この記事は、糖尿病について一般的な医学情報をわかりやすくお伝えすることを目的としています。個々の患者さんの診断や治療については、年齢、合併症、使用している薬剤などによって異なります。薬やインスリンを自己判断で変更・中止せず、具体的な治療については主治医にご相談ください。