食後に動くとなぜ血糖が下がる?―食後運動と筋肉の糖取り込み

食事と運動をもう一歩深く

食事と運動をもう一歩深く 第11回

「運動するなら、朝と夜のどちらがいいですか?」

「食後すぐに歩いてもいいですか?」

「食後10分くらい歩くだけでも意味がありますか?」

糖尿病の運動療法では、どんな運動をするかだけでなく、いつ運動するかも気になるところです。

特に注目したいのが、食後に少し体を動かすことです。

食事をすると血糖値が上がります。

そのときに筋肉を動かすと、筋肉はエネルギーを必要とします。

この仕組みを知ると、

「食後に少し歩く」

という、とても身近な行動の意味が見えてきます。

食事をすると血糖値が上がります

ご飯、パン、麺類などに含まれる糖質は、消化・吸収されてブドウ糖となり、血液中に入ります。

そのため食後には血糖値が上昇します。

健康な人ではインスリンが働き、血液中のブドウ糖が筋肉などへ取り込まれます。

しかし糖尿病では、インスリンの分泌が十分でなかったり、インスリンが効きにくくなっていたりするため、食後の血糖値が高くなりやすいことがあります。

そこで登場するのが筋肉です。

筋肉はブドウ糖を使う大きな場所

第9回でもお話ししましたが、筋肉は単に体を動かすためだけの組織ではありません。

血液中のブドウ糖を取り込み、エネルギーとして利用する重要な場所です。

歩く。

自転車をこぐ。

階段を上る。

こうした運動をすると、筋肉は働きます。

働いている筋肉にはエネルギーが必要です。

そこでブドウ糖も利用されます。

つまり、

食事で血糖が上がる時間帯に筋肉を動かす

というのは、理にかなった考え方なのです。

運動すると「インスリンとは別の道」も働く

少しだけ仕組みに踏み込んでみましょう。

通常、インスリンは筋肉の細胞に「ブドウ糖を取り込んでください」という信号を送ります。

ところが筋肉を収縮させると、インスリンによる作用とは別の仕組みによっても、筋肉へのブドウ糖取り込みが促されます。

難しい仕組みを覚える必要はありません。

患者さんに知ってほしいのは、

「筋肉を動かすこと自体が、血糖を利用する助けになる」

ということです。

これは、糖尿病に運動がすすめられる大きな理由の一つです。

食後10分でも意味がありますか?

「運動するなら30分くらいやらないと意味がないのでは?」

と思うかもしれません。

第8回でも説明したように、短い運動を「意味がない」と切り捨てる必要はありません。

食後に10分程度歩くといった短時間の活動でも、食後血糖の上昇を抑える方向に働くことが研究されています。

ですから、

「30分の時間が取れないから何もしない」

より、

「食後に少し歩いてみる」

という考え方ができます。

これなら日常生活にも取り入れやすいのではないでしょうか。

「食後すぐ」か「30分後」か

ここはよく聞かれるところです。

食後血糖が上がるタイミングは、食べた内容や胃腸からの吸収速度、糖尿病の状態などによって違います。

そのため、

「食後○分に運動すれば全員に最も効果的」

と一律に決める必要はありません。

実生活では、

食後の片づけをする。

少し歩く。

買い物へ行く。

といった形で、食後の時間帯に座りっぱなしにせず体を動かすところから始めるとよいでしょう。

食後の「家事」でもいい?

もちろん、運動はウォーキングだけではありません。

食器を片づける。

掃除をする。

洗濯物を片づける。

少し立って動く。

こうした活動も、座ったままでいるより体を動かしています。

「運動着に着替えて30分ウォーキングしないと運動ではない」

と考えると、ハードルが高くなります。

まずは、

食後に座りっぱなしになる時間を少し減らす

というところから考えてみてもよいでしょう。

三食すべての後に歩かなくてもいい

ここでも完璧を目指す必要はありません。

「朝食後も10分、昼食後も10分、夕食後も10分歩かなければ」

と義務にしてしまうと、続けるのが苦しくなる人もいます。

仕事をしていれば、昼食後に歩けない日もあるでしょう。

そこで、

「自分なら、どの食後が一番動きやすいだろう?」

と考えてみます。

夕食後なら歩ける。

昼休みなら少し歩ける。

朝食後に犬の散歩がある。

それぞれで構いません。

できるところから始めることが大切です。

血糖値を測っている人なら、自分の変化を見るのも面白い

家庭で血糖測定をしている方やCGMを使用している方では、

「食後にずっと座っていた日」

と

「食後に少し歩いた日」

で、血糖の動きが違うことがあります。

もちろん一日の結果だけで結論を出すことはできません。

食事内容や薬、睡眠、体調などにも左右されます。

それでも、

自分の生活と血糖の関係を知る

きっかけになることがあります。

数字を「良い・悪い」と採点するだけでなく、

自分の体を知るための情報

として見ると、血糖測定の意味も少し変わってきます。

ただし、低血糖には注意が必要です

ここは非常に重要です。

運動によって血糖値が下がるため、インスリンや一部の糖尿病薬を使用している方では低血糖に注意する必要があります。

特に、

食事量が少なかった。

いつもより長く運動した。

強い運動をした。

といった場合には注意が必要です。

低血糖を起こしやすい方は、「食後に歩けば血糖が下がるから」と自己判断で運動量を増やすのではなく、主治医と相談してください。

「食べたから歩かなければ」ではありません

食後運動の話をすると、

「食べた分を運動で消費するんですね」

と思うかもしれません。

しかし、このシリーズで繰り返してきたように、

運動は食べたことへの罰ではありません。

ケーキを食べたから30分歩かなければいけない。

ご飯を食べすぎたからスクワットをしなければいけない。

そんな関係にしてしまうと、運動そのものが嫌になってしまいます。

食後に体を動かすのは、

筋肉という自分の体の仕組みを上手に使う

と考えてみてください。

自転車でも食後運動になる?

もちろん、自転車も体を動かす方法の一つです。

ただし、食後すぐに強い運動をする必要はありません。

私はヒルクライムをしていましたが、

糖尿病の食後運動として山を登る必要はまったくありません。

普通に歩く。

軽く自転車に乗る。

家事をする。

それでも筋肉は働きます。

糖尿病の運動療法では、

「どれだけきつい運動をしたか」より、「生活の中でどう体を動かすか」

という視点が大切です。

食後運動は「追加」ではなく生活にくっつける

新しい習慣を一つ増やすのは、意外に大変です。

そこで、

すでに毎日していることに運動をくっつける

という方法があります。

夕食が終わったら10分歩く。

昼食後にコンビニまで少し遠回りする。

食後の片づけを自分でする。

このように、

「食後」という毎日必ず起こる出来事を、体を動かす合図にする

と習慣化しやすくなります。

これは特別な運動器具も必要ありません。

今回のポイント

食後には血糖値が上がります。

その時間帯に筋肉を動かすと、筋肉がブドウ糖を利用する助けになります。

だから、

食後に少し体を動かす

という方法には意味があります。

30分まとまって運動できなくても、

10分程度歩く、家事をする、少し立って動く。

そんな方法から始めることもできます。

大切なのは、

「食後は絶対に歩かなければ」と新しい義務を作ることではありません。

自分の生活の中で、

「ここなら少し動けそう」

という時間を探すことです。


次回

運動しても体重が減らない。それでも意味はある?―体重計に出ない運動の効果

「毎日歩いているのに、1kgも減りません」

これは本当によくある悩みです。

でも、運動の効果を体重だけで評価してよいのでしょうか。

第12回では、血糖、インスリン感受性、体力、筋力など、体重計には表示されない運動の効果を考えます。


医療情報について

この記事は、糖尿病の運動療法について一般的な医学情報を提供するものです。食後運動による血糖への影響には個人差があり、食事内容、運動の種類・強度、治療薬などによっても異なります。

特にインスリンや低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方、心血管疾患、眼合併症、神経障害、足病変などがある方は、運動のタイミングや内容について主治医にご相談ください。