食事と運動をもう一歩深く 第2回
前回の記事:「体重を落とす」だけでいい?―ヒルクライムから考える糖尿病の食事と運動
「昨日より1kg体重が減った!」
体重を減らそうとしているとき、これはうれしいですよね。
反対に、
「昨日より1kg増えてしまった……」
となると、「昨日食べすぎたから脂肪が増えたのかな」と心配になるかもしれません。
でも、ここで知っておいてほしいことがあります。
1日で体重が1kg減ったからといって、体脂肪が1kg減ったわけではありません。
同じように、1日で1kg増えたからといって、脂肪が1kg増えたとは限りません。
では、体重計の数字はいったい何を測っているのでしょうか。
体重は「脂肪の重さ」ではありません
私たちの体は、体脂肪だけでできているわけではありません。
筋肉、骨、臓器、血液、そしてたくさんの水分があります。
さらに、食べたものや飲んだもの、消化管の中に残っているものも体重に含まれます。
つまり体重計に乗ったときに表示される数字は、
「その瞬間の体全体の重さ」
です。
「体重が減った=脂肪が減った」
とは限らないのです。
体重は水分だけでもかなり変わります
体重が短期間で変化する大きな原因の一つが水分です。
たとえば、
- 前日に塩分の多い食事をした
- たくさん汗をかいた
- 水分を多くとった
- 排便があった
- 運動をした
といったことでも体重は変化します。
特に「昨日から今日」のような短期間の変化では、脂肪そのものの増減より、水分などの影響を受けていることが少なくありません。
ですから、
昨日より500g増えたから失敗
1kg減ったから大成功
と毎日の数字だけで判断する必要はありません。
体重は、一回の値よりも少し長い期間の流れを見ることが大切です。
「1kg減った」の中身は同じではありません
ここが今回、一番お伝えしたいところです。
仮にAさんとBさんが、どちらも3kg減量したとします。
体重計では、二人とも同じ「マイナス3kg」です。
でも、
Aさんは主に余分な体脂肪が減った。
一方、
Bさんは筋肉もかなり減ってしまった。
としたらどうでしょう。
同じ3kgの減量でも、その意味はかなり違います。
糖尿病の患者さんにとっても、できるだけ筋肉を保つことは重要です。
なぜ筋肉を減らしたくないのでしょうか
筋肉というと、
「力を出すためのもの」
というイメージが強いかもしれません。
もちろん、それも大切な役割です。
しかし糖尿病を考えると、もう一つ重要な働きがあります。
食事をすると、消化・吸収されたブドウ糖が血液中に入ります。
そのブドウ糖を取り込んで利用する大切な組織の一つが骨格筋です。
運動すると筋肉はエネルギーを必要とします。そのため、血液中のブドウ糖を取り込みやすくなります。
また、継続的な運動はインスリンの働きにもよい影響を与えます。
ですから、
「体重を減らすために筋肉までどんどん減らしてしまう」
という方法は、糖尿病の食事・運動療法として望ましいとはいえません。
食事を極端に減らすとどうなる?
「それなら、とにかく食べる量を半分にすれば早くやせる」
と思うかもしれません。
確かに、摂取エネルギーを大きく減らせば体重は落ちやすくなります。
しかし、極端な食事制限を続けると、必要な栄養素が不足したり、脂肪だけでなく筋肉まで失ったりする可能性があります。
特に高齢の方では、筋肉量や筋力の低下は日常生活にも影響します。
「体重を減らすこと」そのものが目的になってしまわないように注意が必要です。
ヒルクライムでも同じでした
第1回で、私が以前、自転車のヒルクライムレースに参加していたことを書きました。
上り坂では体重が軽いことは大きなメリットになります。
それなら、
「できるだけ食べずに、体重をどんどん落とせば速くなるのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、実際にはそう単純ではありません。
自転車を速く走らせるには、ペダルを踏み続ける力が必要です。
体重を落とすために筋肉まで大きく減ってしまい、出せる力が落ちれば、
軽くなったのに速く走れない
ということが起こり得ます。
そこで重要になるのが、
体重そのものではなく、「体重に対してどれだけ力を出せるか」
という考え方です。
糖尿病治療は自転車競技ではありませんが、
「体重計の数字だけを追いかけない」
という点では、共通して考えられる部分があります。
では、体脂肪だけを減らせばいい?
ここまで読むと、
「では、脂肪だけを減らせばいいんですね」
と思われるかもしれません。
基本的な方向としては、余分な体脂肪を減らし、筋肉をできるだけ維持することを目指します。
ただし、ここにも注意があります。
体脂肪は悪者ではありません。
脂肪組織にはエネルギーを蓄える役割がありますし、体にとって必要な働きもあります。
問題なのは、「脂肪があること」ではなく、余分な脂肪が蓄積している状態です。
また、すべての糖尿病患者さんに減量が必要なわけでもありません。
やせている方、高齢の方、低栄養の方などでは、むしろ体重や筋肉を減らさないことが重要になる場合があります。
ですから、
糖尿病になった=やせなければいけない
ではありません。
自分に減量が必要なのか、必要ならどの程度を目指すのかを考えることが大切です。
家庭用の体組成計はどう考えればいい?
最近の体重計には、体脂肪率や筋肉量まで表示されるものがあります。
「これなら脂肪が減ったか分かるのでは?」
と思いますよね。
とても便利な道具ですが、表示される体脂肪率や筋肉量は、測定条件や体内の水分状態などによって変動します。
そのため、
体脂肪率が昨日より0.5%増えた
という一回の数字に振り回される必要はありません。
測るのであれば、できるだけ同じような条件で測定して、こちらも長い目で傾向を見るのがよいでしょう。
大切なのは「今日の数字」より「流れ」
減量を始めると、毎朝の体重が気になるものです。
昨日より増えればがっかりし、減ればうれしくなる。
でも、体重は水分などの影響を受けながら毎日上下します。
私は、
一日の数字に一喜一憂するより、数週間から数か月の流れを見る
ことが大切だと考えています。
そして、体重だけでなく、
「歩くのが少し楽になった」
「以前より運動を続けられるようになった」
「血糖値が改善してきた」
「食事の習慣が変わってきた」
といった変化にも目を向けてみてください。
体重計には表示されない改善もたくさんあります。
今回のポイント
体重が減ったときに減っているものは、脂肪だけとは限りません。
脂肪、筋肉、水分など、さまざまなものが体重の変化に関係しています。
だからこそ、
「何kgやせたか」だけではなく、「どのようにやせるか」
を考えることが大切です。
減量が必要な糖尿病患者さんでは、極端な方法で体重だけを落とすのではなく、
筋肉をできるだけ保ちながら、余分な体脂肪をゆっくり減らしていく。
この考え方を、このシリーズの基本にしたいと思います。
では、その「体脂肪」は、そもそもどうして増えるのでしょうか。
次回は、食べたエネルギーと使ったエネルギーの関係から考えてみましょう。
次回
体脂肪はなぜ増える?―「食べた量」と「使った量」の基本
「そんなに食べていないのに、なぜ体重が増えるんだろう?」
糖尿病外来でもよく出てくる疑問です。
次回は、摂取エネルギーと消費エネルギーという減量の基本を、難しい計算をできるだけ使わずに説明します。
医療情報について
この記事は、糖尿病の食事療法・運動療法について一般的な医学情報を提供するものです。適切な体重や減量の必要性は、年齢、体格、筋肉量、治療内容、合併症などによって異なります。
特に高齢の方、やせている方、腎臓病などで食事療法を行っている方は、自己判断で極端な食事制限を行わず、主治医や管理栄養士などにご相談ください。

