有酸素運動で脂肪は燃える?―ウォーキングと自転車をどう考えるか

食事と運動をもう一歩深く

食事と運動をもう一歩深く 第8回

「脂肪を燃やすためには、20分以上運動しないと意味がない」

こんな話を聞いたことはありませんか?

すると、

「今日は10分しか歩けないから、やっても意味がない」

「30分続けて運動する時間がないから、今日はやめておこう」

と思ってしまうかもしれません。

でも、本当にそうでしょうか。

今回から、このシリーズでは運動についてもう少し詳しく考えていきます。

最初のテーマは、ウォーキングや自転車などの有酸素運動です。

そもそも「有酸素運動」って何?

有酸素運動という言葉はよく聞きますが、少し分かりにくい名前ですよね。

代表的なものには、

ウォーキング、ジョギング、自転車、水泳などがあります。

一般的には、比較的長い時間続けられる運動をイメージすると分かりやすいでしょう。

こうした運動では、筋肉がエネルギーを使います。

そのエネルギー源として利用されるものの一つが脂肪です。

そこで、

「有酸素運動=脂肪を燃やす運動」

というイメージが広がったのだと思います。

ただし、体はそれほど単純ではありません。

運動中は脂肪だけを使っているわけではない

私たちが運動するとき、体は一種類の燃料だけを使っているわけではありません。

脂肪も使いますし、糖質も使います。

そして、

運動の強さや時間などによって、どのエネルギー源をどの程度利用するかが変わります。

ですから、

「この運動をすれば脂肪だけが燃える」

と考えるのは正確ではありません。

体脂肪を減らすという目的では、運動中の数十分だけでなく、一日、さらに数週間・数か月という長い時間でのエネルギーバランスを見る必要があります。

ここで第3回、第4回の話につながります。

「20分以上運動しないと脂肪は燃えない」は本当?

これは、ぜひ覚えておいてほしいところです。

運動を始めて20分たった瞬間に、突然脂肪が燃え始めるわけではありません。

運動を始めた早い段階から、糖質とともに脂肪もエネルギー源として利用されています。

したがって、

「20分未満の運動には意味がない」

と考える必要はありません。

10分でも、5分でも、体を動かすことには意味があります。

「まとまった時間が取れないから今日はゼロ」

とするより、

できる時間に少し動く

という考え方の方が、日常生活には取り入れやすいでしょう。

10分を3回でもいい?

「30分続けて歩けないけれど、10分なら歩けます」

という方もいます。

それなら、

朝に10分。

昼に10分。

夕方に10分。

という方法も考えられます。

必ずしも一度に長時間運動しなければならないわけではありません。

特に運動習慣がなかった方に、

「明日から毎日1時間歩きましょう」

と言っても、なかなか続きません。

まずは、

今より少し動く。

そこから始めて構いません。

糖尿病では「脂肪を燃やす」だけが運動の目的ではない

糖尿病の患者さんに運動をおすすめする理由は、体脂肪を減らすためだけではありません。

運動すると筋肉がブドウ糖を利用します。

また、運動を続けることでインスリンの働きが改善することも期待できます。

さらに、体力や筋力の維持、心血管系への効果など、運動にはさまざまな意味があります。

つまり、

体重が減らなかったから運動は無駄だった

とはいえません。

これは後の回でも詳しく取り上げます。

ウォーキングのよいところ

糖尿病の運動療法として、ウォーキングは取り入れやすい方法の一つです。

特別な施設を必要とせず、日常生活の中に組み込みやすいからです。

「運動の時間を作る」と考えなくても、

少し遠い場所まで歩く。

買い物のときに少し多く歩く。

エレベーターではなく階段を使ってみる。

といった方法もあります。

このシリーズで繰り返しお伝えしている、

小さなことを続ける

という考え方と相性のよい運動です。

自転車という選択肢もあります

私は以前、ヒルクライムレースに参加していましたので、私にとって身近な有酸素運動は自転車です。

もちろん、糖尿病の運動療法としてヒルクライムをする必要はまったくありません。

普通の自転車でも構いません。

自転車の特徴の一つは、サドルに体重を預けながら運動できることです。

そのため、ウォーキングとは体への負担のかかり方が違います。

一方で、転倒の危険性や交通環境などにも注意が必要です。

大切なのは、

ウォーキングと自転車のどちらが絶対に優れているか

ではありません。

その人が安全に、そして続けやすい方法を選ぶことです。

私が自転車を続けられた理由

私はヒルクライムレースに参加していた頃、もちろん記録や順位を意識して練習していました。

しかし、長く自転車に乗れた理由は、それだけではなかったと思います。

自転車に乗ること自体が好きだったからです。

景色が変わる。

季節を感じる。

昨日登れなかった坂を少し楽に登れるようになる。

そうした楽しさがありました。

これは糖尿病の運動療法でも意外に大切です。

「医学的に一番よい運動は何か」だけでなく、「自分が続けられる運動は何か」

という視点を持ってみてください。

運動は「食べたことへの罰」ではありません

第7回でも触れましたが、

「今日はケーキを食べたから30分歩かなければ」

というように、運動を食事への罰として考える必要はありません。

運動には、消費エネルギーを増やす以外にもさまざまな効果があります。

そして、食事と運動は、

食べた分を運動で帳消しにする関係

ではありません。

どちらも、健康な体を維持するための大切な要素です。

どのくらいの強さで運動すればいい?

運動の強さは、その人の年齢や体力によって違います。

同じ速度で歩いても、楽に感じる人もいれば、かなりきつく感じる人もいます。

そのため、

「時速○kmで歩かなければならない」

と一律に考える必要はありません。

運動習慣がない方は、まず無理のない強さから始めます。

「少し体が温まる」

「呼吸は少し増えるけれど、無理なく続けられる」

くらいから始める方法もあります。

慣れてきたら、時間や回数などを少しずつ調整していきます。

「毎日できない」でも大丈夫

雨の日。

仕事が忙しい日。

体調がよくない日。

運動できない日は当然あります。

一日できなかったから、

「もう続かなかった」

と考える必要はありません。

翌日にまた始めればよいのです。

食事と同じで、

運動も100点を毎日取る必要はありません。

続けられる形を作ることの方が大切です。

運動を始める前に注意が必要な人もいます

糖尿病がある方では、誰でも同じ運動をしてよいわけではありません。

心臓や血管の病気、糖尿病網膜症、神経障害、足の病変、腎臓病などがある場合には、運動内容について個別の配慮が必要になることがあります。

また、インスリンや低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方では、運動に伴う低血糖にも注意します。

特に、これまでほとんど運動していなかった方が急に強い運動を始める場合には、主治医と相談してください。

今回のポイント

有酸素運動では脂肪もエネルギー源として利用されます。

しかし、

「20分以上運動しないと脂肪が燃えない」

というわけではありません。

短い時間の運動にも意味があります。

そして糖尿病では、

運動の価値は体重を減らすことだけではありません。

血糖、インスリンの働き、体力、筋力など、さまざまな面に関係します。

だからこそ、

一番きつい運動ではなく、一番続けられる運動を探す。

ウォーキングでも、自転車でも構いません。

まずは今日、

いつもより少しだけ体を動かしてみる。

そこから始めてみませんか。


次回

筋トレはなぜ糖尿病にいい?―筋肉と血糖の意外に深い関係

有酸素運動の次は筋力トレーニングです。

「糖尿病なのに筋トレ?」

と思うかもしれません。

しかし、筋肉は血液中のブドウ糖を利用する重要な組織です。

次回は、

筋肉を使うとなぜ血糖に影響するのか、減量中になぜ筋トレを組み合わせたいのか

を分かりやすく説明します。


医療情報について

この記事は、糖尿病の運動療法について一般的な医学情報を提供するものです。適切な運動の種類、強度、時間は、年齢、体力、治療内容、合併症などによって異なります。

心血管疾患、網膜症、神経障害、足病変、腎臓病などがある方や、インスリン・低血糖を起こす可能性のある薬を使用している方は、運動内容について主治医にご相談ください。体調が悪いときには無理に運動しないでください。